休職や離職、プレゼンティーズムといった課題を前に、すでに研修や相談窓口の整備などに取り組んでいる企業も少なくないかと思います。
一方で、
「施策は実施しているのに、成果につながっている実感がない」
「次に何を強化すべきか判断できない」
といった悩みを抱えるケースも多いのではないでしょうか。
メンタルヘルス対策には多くの選択肢がありますが、 重要なのは、自社の課題をどう整理し、どの方向からアプローチすべきかを見極めることです。
本稿では、メンタルヘルス対策を考えるための全体像や、具体的な打ち手、強化ポイントについてご紹介します。

1.メンタルヘルス対策を考えるための軸
メンタルヘルス対策を検討する際、「どんな施策を導入するか」から考え始めてしまうこともあるかと思います。
研修を実施する、相談窓口を整備する、制度をつくる──
選択肢が多いからこそ、何が自社に合っているのか分からなくなってしまうこともあります。
しかし、メンタルヘルス対策を推進するうえで大切なのは、施策を選ぶ前に、自社の状況を整理することです。
まずは、
「自社では今、何が起きているのか」
「どこに課題がありそうか」
を整理することが、遠回りに見えて、結果として最も近道になります。
その整理のヒントとなるのが、「仕事の要求度‐資源モデル(JD-Rモデル)」という考え方です。

出所:Bakker & Demerouti「Job Demands–Resources Theory」
仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)では、仕事の状態を「仕事の要求度」「仕事の資源」「個人の資源」の3つの観点で整理します。
たとえば、仕事量やプレッシャーなどの「仕事の要求度」が過剰に高い状態では、心理的ストレス反応が高まりやすく、その結果として仕事のパフォーマンス低下につながる可能性があります。
一方で、仕事の裁量や上司・同僚の支援といった「仕事の資源」、レジリエンスや自己効力感といった「個人の資源」が充実していると、ストレス反応を和らげたり、ストレスの影響を軽減したりすることが期待できます。
また、ポジティブメンタルヘルスの観点では、仕事・個人の資源が整っていることに加え、適度な仕事の要求度(やりがいのある目標や挑戦)があることで、ワーク・エンゲージメントが高まり、仕事のパフォーマンス向上につながると考えられています。
このようなメカニズムを念頭に置きながら、メンタルヘルス対策を検討していくことが望ましいでしょう。
さらに、JD-Rモデルの視点で整理すると、メンタルヘルス対策は大きく次の4つの方向から検討することができます。
実際には、ストレスチェックの結果、休職・離職の状況、エンゲージメント調査などの各種データを確認しながら、「仕事の要求度」「仕事の資源」「個人の資源」に関わる指標がどうなっているのかを分析することで、課題のある領域が見えてきます。
このように課題の所在を整理できると、施策を闇雲に増やすのではなく、自社にとって優先すべき対策の方向性が見えやすくなります。
次章では、この整理の視点をもとに、メンタルヘルス対策を4つの打ち手に分けて見ていきます。
2.メンタルヘルス対策の4つの方向性
1章で紹介した仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)に重ねて考えると、メンタルヘルス対策は4つの方向性に整理できます。
① 職場環境改善:仕事の負担(要求度)を適正化し、職場の支え(仕事の資源)を高める ② セルフケア:個人の資源を高め、強いストレスを抱えたときに適切に対処できるようにする ③ ラインケア:管理職が職場の支え(仕事の資源)を高め、部下の不調に早めに気づき対応できるようにする ④ 個別フォロー:悩みや問題を抱える人、不調リスクが高い人に対して、面談・相談などで個別に支援する

ここからは、この4つの分類ごとに、企業が取り組める具体的な打ち手を紹介していきます。
① 職場環境改善 ──職場環境を見直し働きやすい・やりがいある環境を整える
4つの分類の中でも、まず押さえておきたいのが「職場環境改善」です。
セルフケアやラインケアは比較的取り組みやすい一方で、職場環境改善は「何から手をつければよいか分からない」と後回しになりやすい傾向があります。
しかし、心身の不調やストレスの背景には、個人の問題だけでなく、業務量・働き方・人間関係・職場の仕組みなど、職場側の要因が関わっているケースも少なくありません。
そのため、メンタルヘルス対策を“根本から進める”という意味でも、職場環境改善は重要な取り組みです。
職場環境改善の進め方はさまざまですが、考え方としては次の3つの観点で整理すると分かりやすくなります。
- 対象職場(どこから取り組むか)
- 実施方法(どう進めるか)
- 支援者(誰が支えるか)
以下、それぞれのポイントを紹介します。

1)対象職場|「高リスク職場から」か「全社で」か
職場環境改善は、まず取り組む範囲を決めることがポイントです。大きく分けると、次の2つの進め方があります。
高リスク職場のみを対象にする
ストレスチェックの結果や欠勤・離職状況などから、リスクの高い職場を特定し、重点的に改善を行う方法です。限られたリソースでも取り組みやすく、改善計画立案から中間・最終振り返りを伴走することで、職場の根本課題を解決していきます。
全職場を対象にする
リスクの高い職場だけでなく、全職場を対象に職場改善に取り組む方法です。職場の課題解決だけではなく、強みを伸ばす視点でも取り組むことで、ワークエンゲージメントを高めていくことが可能となります。
2)実施方法|「誰が計画を立てるか」で進め方が変わる
職場環境改善の実施方法は、進め方によって大きく3つに整理できます。
職場リーダーが改善計画を立てて推進する
現場の実態をよく理解しているリーダーが主体となり、改善を進める方法です。意思決定が早く、スピード感を持って進めやすい点が特徴です。
職場メンバーから個別に意見を聞き、改善計画を立てて推進する
現場の実態をよく理解しているリーダーが主体となり、改善を進める方法です。意思決定が早く、スピード感を持って進めやすい点が特徴です。
職場メンバー全員で話し合い、改善計画を立てて推進する
職場全体で対話の場を設け、納得感を持って改善を進める方法です。当事者意識が生まれやすく、改善が継続しやすい点がメリットです。
3)支援者|社内で支えるか、外部の力を借りるか
職場環境改善は、現場だけで完結させるよりも、支援者を明確にしておくと進めやすくなります。
社内リソースで支援する
産業医・保健師・心理職・人事部・管理職層などが連携し、職場環境改善をサポートする方法です。自社の状況を踏まえた支援がしやすく、継続的に取り組みやすい点が特徴です。
外部事業者の力を借りる
外部の専門家や支援サービスを活用し、改善計画の立案や推進結果を踏まえた改善をサポートしてもらう方法です。社内の工数を抑えつつ、客観的な視点で改善を進めやすくなります。
② セルフケア ──個人がストレスに気づき、対処する力を高める
セルフケアは、メンタルヘルス対策の中でも多くの企業が取り組んでいる領域であり、教育・研修を中心に実施しているケースも多いのではないでしょうか。
セルフケアの目的は、従業員がストレスを「我慢する」のではなく、自分の状態に気づき、早めに整える行動を取れるようにすることです。また、必要なときに相談先につなげるなど、不調を深刻化させないための行動を促すことも重要なポイントです。
セルフケアの取り組みは、教育・研修だけでなく、次のように5つの打ち手に整理できます。

<セルフケアの主な打ち手>
1)教育・研修
セルフケア施策として最も一般的なのが、従業員向けの教育・研修です。ストレスの仕組みや対処法、相談の仕方などを学ぶことで、セルフケアの第一歩をつくることができます。
2)定期的な情報配信
研修を一度実施したきりでは、日々の業務の中で理解が薄れてしまうことがあります。そこで、社内報やメール、社内チャットなどを活用し、セルフケアに関する情報を定期的に届けることで、繰り返しセルフケアを促すことができます。
3)資料配布
セルフケアは「知っている」だけでなく、必要なときに思い出せることが大切です。ストレス対処のポイントや相談先一覧などを資料として配布し、いつでも見返せる形にすることで、行動につながりやすくなります。
4)資格取得の促進
メンタルヘルス・マネジメント検定などの資格取得を支援し、リテラシーを高める方法もあります。学びを体系化できるだけでなく、従業員自身が「理解できた」「身についた」と実感しやすい点が特徴です。
5)実践プログラムの提供
セルフケアは、実践を促してこそ定着していきます。自分自身に向き合う時間を定期的に設けるプログラムや、自身の目の前のことに集中するマインドフルネスなどを行うことも有効です。
セルフケアは取り組みやすい一方で、「研修を実施した=対策できた」となり、形骸化してしまうこともあります。そのため、単発の施策にするのではなく、情報配信や資料配布などを組み合わせて継続的に支える仕組みとして設計することがポイントです。
③ ラインケア ──管理職が部下を支援できる状態をつくる
ラインケアとは、管理職が日頃から部下の変化に気づき、必要に応じて声をかけたり、相談につなげたりすることで、職場としての支え(仕事の資源)を高める取り組みです。
メンタルヘルス対策の中でも、ラインケアは多くの企業で取り組まれており、特に「教育・研修」を中心に実施しているケースが多いのではないでしょうか。
一方で、管理職に求められる役割は年々広がっており、「研修を実施しただけ」で現場の行動が変わるとは限りません。そのためラインケアも、教育・研修に加えて複数の打ち手を組み合わせながら、継続的に整えていくことが重要です。
ラインケアの取り組みは、次のように整理できます。
<ラインケアの主な打ち手>
1)教育・研修
ラインケア施策として最も一般的なのが、管理職向けの教育・研修です。たとえば、メンタル不調者の早期発見と対応を学ぶ研修だけでなく、部下とのコミュニケーション活性化や、職場の心理的安全性向上に焦点を当てた研修など、テーマを多様化することも有効です。
2)資料配布
研修で学んだ内容も、いざ現場で対応が必要になったときに「思い出せない」「判断に迷う」ことは少なくありません。
そのため、管理職が困ったときにすぐに確認できるように、メンタルヘルスのガイドブックやストレスマネジメントに関する管理職向けマニュアルなどを配布し、いつでも振り返れる環境を整えることも有効です。
3)資格取得の促進
管理職のリテラシーを高める方法として、資格取得を支援する取り組みもあります。
たとえば、メンタルヘルス・マネジメント検定のラインケアコースなどを推奨することで、学びを体系化しやすくなり、管理職自身の理解度や自信にもつながります。
4)「気付く仕組み」の導入
ラインケアでは、「気づける管理職」を増やすだけでなく、気づきやすい仕組みを整えることも重要です。
たとえば、パルスサーベイの導入や、日々の変化を確認するチェックシートの活用などによって、部下の変調をタイムリーにキャッチしやすくなります。
ラインケアは、実施して終わりではなく、現場の状況や管理職の負荷に応じて見直していくことが重要です。
研修・資料・資格・仕組みなどを組み合わせながら、自社に合った形でアップデートしていくことで、職場の支えをより強化することにつながります。
④ 個別フォロー ──不調リスクが高い人への個別支援
個別フォローとは、悩みや問題を抱えている人、または不調リスクが高い人に対して、面談・相談などを通じて個別に支援する取り組みです。メンタルヘルス不調は、早い段階で気づき、適切な支援を行うことで、重症化防止につながります。
そのため個別フォローは、メンタルヘルス対策の中でも特に「早期対応」の役割を担う重要な領域です。
個別フォローの方法はさまざまですが、取り組みとしては次のように整理できます。
<個別フォローの主な打ち手>
1)高ストレス者面談・相談
ストレスチェックで高ストレス者となった従業員に対して、面談や相談の機会を提供する方法です。
医師面接の案内だけでは手が挙がりにくいケースもあるため、産業保健スタッフによる健康相談をあわせて案内するなど、「放置しない仕組み」を整えることがポイントになります。
2)特定社員面談
メンタルヘルスのリスクが高まりやすいタイミングや属性に対して、面談や面談勧奨を行う方法です。
たとえば、以下のような対象が想定されます。
「不調が表面化してから対応する」のではなく、環境変化のタイミングで先回りして支援することが狙いです。
3)全社員面談
年1回などの頻度で、産業医・保健師等が全社員と面談を行う方法です。健診結果やストレスチェック結果も踏まえて実施するケースも多く、不調者の早期発見につながります。
また、定期的に医療職とコミュニケーションを取る機会をつくることで、社員側も「困ったときに相談しやすい関係性」を築きやすくなる点もメリットです。
4)健康相談
従業員が不調を抱え込まず、不安や悩みがあったときに医療職に相談を促す取り組みです。とはいえ、なかなか自発的な相談が生まれないことがよくある課題です。
そのため、相談の価値を理解してもらうために社内の相談事例を共有する、相談体験機会を提供する、チャットなど含めて相談方法を多様化する、eラーニングアンケートで相談したいことを記入してもらうなど、相談のハードルを下げる工夫が有効です。
5)メンター相談・1on1
個別フォローは医療職が中心となることが多い一方で、メンター制度や上司との1on1など、医療職以外の支援を活かす方法もあります。
ただし、これらを「メンターや上司任せ」にしてしまうと、対応の質にばらつきが出る可能性もあります。そのため、会社側が研修や説明会を行うなど、取り組みの質を高める支援をセットで設計することがポイントです。
個別フォローは、メンタル不調者の予防や早期発見・早期対応に向けた重要な取り組みです。法令に定める高ストレス者への面談だけではなく、ご紹介した面談・相談方法を組み合わせながら、自社の状況に合った形で取り組みを検討していきましょう。
3.WILLEEのサポート
メンタルヘルス対策は、単発の施策だけで成果が出るものではありません。自社の課題を整理し、施策を設計し、結果を検証しながら改善を続けていくことが重要です。
健康経営を伴走支援するWILLEEでは、健康施策全体のPDCAを回す支援を行っており、その中でメンタルヘルス対策についてもご支援しています。
具体的には、次のようなプロセスを通じて、企業の状況に合わせた取り組みをサポートしています。
WILLEEの主なサポート
「他社はどのような取り組みをしているのか知りたい」
「自社の場合はどこから取り組むべきか整理したい」
そんなご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。



