1.健康施策への参加率を高めるうえでの4つのステップ
プロモーションの話に入る前に、まずは健康施策への参加率を高めるうえでの全体像を、顧客への消費行動を促すマーケティングに活用されている「AIDAの法則」を用いて解説します。
AIDAの法則
AIDAの法則とは、存在を知ってからサービスや商品を買うまでの心理的な流れを表す、消費行動の仮説に関する初めてのマーケティング理論です。消費者の心理は4つの段階で構成され、各段階でマーケティング施策も変化していくべきだという考え方です。
4つの段階の頭文字を取ってAIDAの法則と呼ばれており、それぞれの段階におけるゴールは以下の通りになります。
Attention(注意):存在を知ってもらう
Interest(興味):良さそうだと興味を持ってもらう
Desire(欲求):欲しいと思ってもらう
Action(行動):購買行動を起こしてもらう
健康施策への参加に至る4つのステップ
このAIDAの法則を、健康施策への参加に至る4つのステップに当てはめたのが以下の図になります。
まずはAttentionにおいて、最適なプロモーション方法を組み合わせ、対象者となる社員に施策の存在を認知してもらうことが全ての始まりになります。
認知したのちは、Interestにおいて、対象者に対する共感を得る情報、良さそうだと思える情報を伝え、もっと詳しく知りたいという心理状態にしていきます。
Desireにおいては、安心感を与え、参加しない理由を取り除くような情報を伝えていくことで、それなら参加してみようという心理状態にしていきます。
そしてActionにおいて、いつかいつかではなく、今参加すべき理由やメリット等を提示して、参加を促していきます。
これらAttentionからActionまでは、例えば1通のメールの中で完結する場合もありますが、その中でも以下のような工夫を行うことができます。
- 見てもらえる、読んでもらえるよう、対象者の心理を踏まえてタイトルや伝える内容をブラッシュアップする、また伝える順番を入れ替える
- メール本文では興味の湧くインパクトある情報に絞って伝える、詳細内容や参加方法はメール添付資料や別ページに遷移させて説明する
本稿では、AIDAの法則のAに当たるプロモーション方法について、以降の章で解説をしていきますが、その後のプロセス(I・D・A)については、また別の記事で整理していきたいと思います。
2.健康施策への参加率を高める9つのプロモーション方法
本章では、社員に対して認知を高めるプロモーション方法について9つの分類に分けて解説します。
広告の世界では、Web・インターネット広告、ヒューマン広告、メディア広告、セールスプロモーション広告の4分類と更にその中で多様な広告方法があります。
しかし、健康施策の社内向けプロモーションに関してその軸で整理しようとすると、「この方法はどの分類に当たるのか?」というドツボにはまるリスクがあります。そのため、健康経営推進担当者の方々にスッと入りやすい分類で整理をしています。
①案内資料を本人宛に送る・配る
施策実施に関する案内資料を対象者1人ひとりの自宅や職場に送る方法です。
企業や健保が発送する健診受診案内や医療費通知、けんぽだよりなどの配布物と同封する形で施策の案内資料を送るなどであれば、新たな郵送手配や費用がかからないため、取組みやすいはずです。
自宅に送る場合は、家族の目にも触れるため、企業の姿勢や取組みに共感したご家族からのプッシュも期待できるかもしれません。
喫煙を促進している企業においては、喫煙者宛に社長名でメッセージレターを送るなどの取組みもしています。
また、健康経営で取組んでいる施策全体像を整理した健康白書を作成し、改めて社員に周知する取組みを行う企業も増えてきています。
②社内の滞留場所に掲示する
企業内で社員が滞留する場所に、ポスターや告知資料を掲示する方法です。社員の出社率が高い企業においておススメです。
執務室内のコピー機や事務用品が置いてある場所、社内掲示板、トイレ、休憩スペース、更衣室、喫煙所、食堂、自販機、トレーニングスペースなど、自社の中を改めて眺め渡し、社員が仕事から離れて滞留するような場所を探してみましょう。
頭から仕事の情報が離れた瞬間を狙って情報を伝えることで、その情報に対する感度を高めていくことができます。
③メール等業務ツールで告知する
日常的に社内で利用しているメールやチャットツール、などを使って一斉に告知を行う方法です。
案内の見逃しを防ぐために、スケジュール登録機能を使って、予定表に入れてしまうという方法で告知を行っているケースもあります。予定表は見逃すことが少ないため、後からでも気づくことができます。
ちなみにメールは、誰から送られてきたか、自分宛に送られてきたかが見逃し率を下げるポイントのため、経営層から送ってもらう、特に参加してもらいたい対象者には個別メールで送る、などの工夫を行っている企業もあります。
チャットツールでは、個別のスレッドを立てて継続的に情報を発信することや、社員からのレスポンスをもらったりすることもできるため、賛同的な社員をコアに盛り上がりを作っていくことも可能になります。
④THE広告的な方法で告知する
会社PCの起動時やスクリーンセーバーに自動表示する、健康経営推進担当者のメール署名やオンライン会議用の背景等を使って告知を行う方法です。
Webページを表示したときに別画面が自動で立ち上がるポップアップ広告や、Webページ上に設置されているバナー広告、記者会見の際などに設置されているバックパネル広告のように、ふとしたタイミングで施策を告知することができます。
リモートワークが進み、メールの量やイントラ等で発信される情報が増えている中で、効果的に上記の方法を用いて社員に対する告知を強化している企業も出てきています。
⑤専用アプリ等で告知する
健康づくりのために企業や健保でヘルスケア関連のアプリやシステムを導入し、管理者画面からメッセージ等が送れる機能がある場合、そのアプリやシステム上で告知を行う方法です。
この方法はそれらアプリやシステムを利用している社員へのリーチに限定されてしまいますが、健康づくりのループに入った社員を更なる健康づくりへと誘導していくうえでは有効な手段です。
アプリやシステムの提供事業者にどの時間帯でのアクセスが多いのかを確認し、そのタイミングに合わせた告知を行うとより効果的に対象者に認知してもらうことができます。
⑥社内メディアに掲載する
社内イントラへの掲載や社内SNSでの発信、社内広報誌や広報サイトで記事化するなどの方法です。
社内イントラへの掲載は一般的な方法ですが、多様な情報が流れていくため、お知らせした情報が埋もれてしまうケースが大半です。そのため、イントラ上に固定表示のバナーを作成して、一定期間は確実に目に触れるように工夫している企業もあります。
社内広報誌や広報サイトは、社内の取組み実績や体験談、社員にフォーカスした記事等を取り上げることが多いため、健康施策の実施報告などで活用されている企業も多いかと思います。
会社の置かれた状況・背景や施策の企画ストーリー、トライアル実施結果などを取り上げてもらうことができれば、施策の告知用にも社内広報誌や広報サイトを効果的に活用することができ、施策参加への期待値を合わせて高めていくことも可能になります。
⑦会議等で告知する
全社員や管理職が一堂に参加する会議や行事などで告知をする、もしくは経営陣や産業医等から健康に関する話題に触れてもらい、施策についても告知してもらう方法です。
参加者が会社の状況や今後の方向性について知りたいという前向きな気持ちで参加しているため、そのような場で告知できることはこれ以上ないチャンスです。
全社会議のあるタイミングを歩数イベントのスタート日として、その会議時にキックオフ宣言を行うといった取組みを行う企業もあります。
また、職場単位での朝礼や定例MTGの場を借りて告知をする、もしくはそのような場で管理職等から告知してもらう方法もあります。
管理職等からの告知は、職場メンバーに対する強いメッセージを打ち出せるため非常に強力な告知方法になりますが、その前提として管理職自身が健康づくりの重要性を理解していることが不可欠になります。
その理解がないと単なるやらされ仕事に陥ってしまうリスクがあるため、管理職向けの健康教育等で健康経営の重要性や管理職の役割等をしっかりとインプットしておくことが望まれます。
⑧研修等で告知する
健康経営の一環で実施する研修やセミナー、Eラーニング、コラム配信などで、施策の紹介も行っていく方法です。
自社内のリソースで実施する場合だけでなく、外部委託して実施する場合においても告知が可能です。委託先と事前調整を図り、講義の中で施策について触れてもらう、研修等の最後に時間枠を設け担当者から告知する、などの取組みを行っている企業もあります。
また、社内で実施されている健康経営以外の研修やセミナー等においても、テーマが近しい場合は紹介機会をもらって告知することも必要に応じて検討すると良いでしょう。
⑨個別面談・相談等で案内する
産業医や保健師等の専門職との面談の際に、対象者の状況に応じて施策の案内を行う方法です。
なかなか1人では行動に移せない対象者に対しても、専門職の方がお奨めするならやってみようという動機づけになります。
対象者個人の働き方や生活習慣、ストレスの状況などを踏まえたスムーズな案内を行ってもらうために、会社の施策全体像を一覧化して共有を図っておくとスムーズです。
契約時間の短い嘱託産業医に対しても、施策全体像を整理した一枚紙を渡し、面談の際に案内をしてもらっている企業もあります。
また、専門職以外で社員の相談対応を行っている社員がいる場合、その方へも情報を連携しておくと良いでしょう。
以上、9つのプロモーション方法について解説しましたが、各方法の具体的な施策と、オフライン、オンラインいずれにマッチしているかを整理した表をお示しします。
自社ではどのようなプロモーション強化が可能か、検討する上での材料としていただければと思います。
3.最適なプロモーションを行う上での3つのポイント
前章で解説したプロモーション方法を踏まえ、実際の現場でどのように最適なプロモーションを行っていくべきなのか、考慮すべき3つのポイントをお伝えします。
(1) グループごとの特性理解とプロモーション設計
会社全体で一律のプロモーションを行うだけでは、社員1人ひとりまで十分情報が伝わりません。
事業場や部門などの幾つかのグループに分け、それごとに特性を整理し、最適なプロモーション方法を検討することが重要です。
幾つか分けたグループごとに以下の項目を確認し、それぞれの対象者の解像度を高めたうえで最適なプロモーションが何かを検討していくことで、参加率を高めていくことができます。
プロモーション方法検討のために確認すべき項目
※各項目が、前章の①~⑨のプロモーション方法のうち、どの検討のインプットになるかを補足
- 配布されている書類・・・①関連
- 働き方や行動パターン・・・②関連
- 活用している業務ツールやよく見る媒体・・・③④⑤⑥関連
- 会議体や研修等の状況・・・⑦⑧関連
- 悩みがある際の相談先など・・・⑨関連
(2) 施策参加状況を踏まえたプロモーションの見直し
施策を告知したものの、思うように参加率が高まらないということはよくあることと思います。
その場合は、上記グループごとの粒度で参加状況をモニタリングし、その状況を踏まえ適宜プロモーション方法を見直すことが重要です。
一般顧客への消費行動を促すマーケティングとは異なり、社内で健康施策への参加を促すマーケティングでは原因追及が容易であるため、主要な施策については是非モニタリングと対策を講じていくことをお勧めします。
- 1回の実施で完了するようなセミナーやEラーニングなどの施策
→施策が完了次第グループごとの参加結果を集計し、それを基に次回のセミナーにおけるプロモーション方法をグループごとに検討する - 年間実施しているプログラムや補助制度などの施策
→定期的なタームで参加状況を集計し、それを基に次のタームにおける改善策をグループごとに検討する
(3) 健康経営推進担当者の配置とプロモーション協力体制構築
健康経営推進部署だけでは、細やかなプロモーションが難しいため、事業場や部門などのグループごとに推進担当者を配置し、協力を得ていくことが重要です。
上記のグループごとに健康経営の推進担当者を配置し、以下の協力を得ていくことで実行力を上げることが可能になります。
プロモーションにおいて推進担当者に協力してもらうこと
- グループの特性を整理する(グループの解像度を上げる)
- 特性を踏まえたプロモーション方法を考える
- プロモーション方法に応じて事業場長や管理職などへの協力を依頼する
- 施策参加状況を踏まえて、次なるプロモーション強化を検討する
4.まとめ
健康経営では最終的なアウトカム改善が求められていますが、健康経営推進担当者の努力次第で改善していけるのは、施策の参加率です。
その参加率が上がっていけば、アウトカムも良い方向に変わっていくはずですが、逆に言うと参加率が低いままだとアウトカムも悪い方向へ落ちていってしまいます。
本稿でお伝えした9つのプロモーション方法と3つのポイントを踏まえ、いま一度、施策参加率を上げていくためにどうしていくべきか、見直しを図っていただけると幸いです。