1.健康行動とは何か?
健康経営における「健康行動」に関しては、明確な定義があるわけではないので、「従業員自身及び周囲の心身の健康のために、日々実践されるべき望ましい行動」と弊社では定義しています。
従業員自身の身体の健康に向けては、適度な運動を行う、バランスの良い食事を摂る、質の良い睡眠をとる、飲酒は適度・適量にする、喫煙しない、などの適切な生活習慣を送ることが健康行動としてまずは挙げられます。また健康診断の結果に問題がある場合は、治療を継続し、適切にコントロールすることも健康のために実践すべき行動と言えます。
従業員自身の心の健康に向けては、ストレスコーピング(問題焦点型:ストレッサーを解消する、情動焦点型:ストレッサーへの捉え方を変える、ストレス解消型:ストレスを発散し解消する)やマインドフルネス(過去の後悔、未来の不安に対してではなく今に焦点を当てる)、生活習慣を改善するなどの行動が挙げられます。
そして、周囲の健康に向けては、よりイキイキとした職場になるよう継続的に職場環境改善を行う(働きやすさを高める、やりがいを高める)、健康状態が気になる同僚には声をかける・専門職に繋ぐといった行動のほか、家族が健康でいられるよう適切な生活習慣に一緒に励む、コミュニケーションをしっかりと取るといった行動も含まれると考えます。
2.健康行動の促進が重要な理由
健康経営では健康状態や業務パフォーマンスを改善することが求められていますが、そのためには、悪化させる原因である日々の行動を正していくことが極めて重要です。
健康行動が促進されていない企業においては、今の健康不良者を改善に導いても、新たな健康不良者が発生し、経年で見るとトータルで健康不良者は減っていない、ということはよくあることかと思います。
産業医や保健師による面談を強化してハイリスク層を日々改善に導いているものの、ホームページで公表している健康状態の数値が経年で悪化してしまっているのは、非常に残念なことと思います。
そのため、いま健康状態が悪くない従業員も含め全社一体で、従業員自身の心と身体の健康、そして周囲の健康に向けた日々の健康行動を促進していくことが重要です。
3.健康行動の促進に向けたキャッチフレーズ化のメリット
では日々の健康行動を促進するために、どのように打ち出していくと良いのでしょうか。
もちろん健康施策1つ1つをしっかりとプロモーションしていくことも極めて重要です。健康施策への参加率を高めることで、ヒントや気づきを与え、日々の健康行動の促進に繋げていくことができるからです。
「健康施策への参加率を高める9つのプロモーション方法」はこちら
しかし、それだけでは健康施策が1つ1つぶつ切りになってしまい、会社として一体全体どのような健康行動を促進したいのか、首尾一貫した考えを従業員と共有することができません。
そのため、従業員一人ひとりに日々どのような健康行動をとってほしいのか、その全体像をキャッチフレーズ化して、分かりやすく伝えていくことが1つの解になります。
次の章で7つの参考事例を示していきますが、従業員に期待する健康行動をキャッチフレーズ化して伝えていくことには以下のようなメリットがあると弊社は考えます。
4.期待する健康行動をキャッチフレーズ化している事例
健康経営優良法人2022(大規模法人部門 ホワイト500)に選定されている会社のうち、期待する健康行動をキャッチフレーズ化している先進事例をご紹介します。
オムロン株式会社「Boost5」
全社共通の健康づくりを応援するため、運動、睡眠、メンタルヘルス、食事、タバコ(禁煙)の5項目について具体的な指標を5つ制定し、「Boost5」と名付けられています。5項目それぞれの指標の目標達成に向けて、年度ごとに特に注力すべきテーマが設定され、取り組まれています。
株式会社明電舎「スマートチャレンジ明電5」
全社で取り組むべき健康活動を5つ設定し、「スマートチャレンジ明電5」と命名されています。受動喫煙対策、生活習慣病対策(39歳以下)、生活習慣病対策(40歳以上)、がん対策、心の健康づくり推進の5つについて、具体的な指標と施策を紐づけながら取組みを進められています。
株式会社ダイセル「健康アクセル6」
グループ従業員に促進して欲しい運動、食事、睡眠、飲酒、間食、喫煙の6つの健康行動を「健康アクセル6」と命名し、その実践を呼び掛けられています。6つのテーマごとに経営トップ自身の健康保持・増進の取組みの発信や、保健師によるオンライン教育を実施されています。
日東精工株式会社「Nicotto7」
健康で充実した人生を送るために設定した運動、夕食、朝食、飲酒、メンタルヘルス、喫煙、睡眠の7つの取組み項目を「Nicotto7」と命名されています。この7つの生活習慣改善にひとつでも多くチャレンジしてもらうことを通じて、生活習慣病リスクの軽減と、活力ある職場づくりに取り組まれています。
積水化学工業株式会社「7つの健康習慣」
従業員の健康寿命の延伸と、いきいきと仕事に臨んでもらうことを目的として、朝食、間食、運動、体重、睡眠、喫煙、飲酒の「7つの健康習慣」を促進されています。7項目それぞれに適切な習慣の基準を設け、2030年にはすべての従業員が6項目以上実施していることを目指されています。
大阪瓦斯株式会社「ヘルシー7」
健康経営宣言に基づき、従業員の健全な生活習慣を担保するための行動指針「ヘルシー7」を策定し、周知されています。体重、食事、運動、飲酒、喫煙、睡眠、ストレスについて、健康診断の際の生活習慣問診等を通じて7項目の実施状況を把握し、組織・個人にフィードバックを行われています。
トヨタ自動車株式会社「8つの健康習慣」
全従業員の健康レベルの底上げを目的として、心身の疾病予防に関連する適正体重(BMI)、運動、飲酒、禁煙、朝食摂取、間食、睡眠、ストレスを「8つの健康習慣」と定められています。また8つの健康習慣を改善する活動を「健康チャレンジ8」と名付け、従業員一人ひとりが現状より一つでも多く、または今現在実践できている習慣をもっと意識・実践することを通じて、健康な人づくりを目指されています。
5.健康行動をキャッチフレーズ化するうえで考えるべき3つのこと
これまでの内容を見て、期待する健康行動をキャッチフレーズ化してみようと考えられた方向けに、キャッチフレーズ化するうえで考えるべき3つのポイントをお伝えします。
①どのような健康行動を含めるか
本稿1章でも定義を記載した通り、健康行動には、生活習慣等の改善行動だけではなく、医療機関への受診行動、専門職への相談行動、同僚の支援行動など、期待する日々の行動は多様に存在しています。
そのため、どこまでを含めて、期待する健康行動として従業員に伝えていくのか、については各社ごとに検討が必要です。自社の従業員の健康状態、健康行動の現状をよく分析し、何を促進していく必要があるのか、取捨選択して考えていくことが望ましいです。
②どのような指標、施策を紐づけるか
従業員に対して期待する健康行動を伝えるだけではなく、必ずそれ紐づく指標を設定し、目標数値の達成に向けて全社・事業場・職場・個人レベルで検証・改善を伴いながら推進していくことが重要です。
また期待する健康行動に紐づけて、具体的な会社施策を発信していくことで、常に全体像を意識した従業員の巻き込みを図っていくことが望ましいです。
③どのようなキャッチフレーズにするか
従業員の記憶に残るネーミングにすることは非常に重要です。
ホワイト500の事例では、健康や前進をイメージさせるワードや、数字を盛り込んでいるケースが大半でしたが、これにこだわる必要はないかと思います。
自社でよく使われているキーワードや、社内コミュニケーションで使ってみたくなるようなキーワードを活用するなども手かと思います。
また、検討プロセスに関しては、健康経営担当者がいくつか候補を出して数名の従業員に聞いてみる方法のほか、趣旨を伝えて社内公募でキーワードを募集するという方法もあります。後者はキャッチフレーズの候補出しの際に、期待する健康行動についての内容理解に努めることになるので、一石二鳥の方法としてお薦めです。
6.まとめ
経営層や推進担当者においては、健康経営の成果として健康状態や業務パフォーマンスの向上につなげていきたい想いはありつつも、従業員に対しては、期待する健康行動に焦点を当ててメッセージを発信していくことが重要です。
本稿が、従業員に対するメッセージ発信に関して、再考するきっかけや参考となれば幸いです。