1.なぜ健康経営に経営層の関与が不可欠なのか?
健康経営の推進において、経営層の積極的な関与が成功のカギを握っています。
その理由は、大きく3つに整理できます。
(1) 健康経営は「経営戦略」であり、トップの意思決定が必要だから
健康経営は単なる福利厚生施策ではなく、企業の成長や持続可能性を支える経営戦略の一つです。
従業員の健康維持・向上は、生産性アップ、医療費削減、離職率低下など、直接的に経営成果へ結びつきます。
しかし、戦略である以上、「現場だけ」「担当者だけ」で推進できるものではありません。
トップの意思決定とメッセージ発信があって初めて、会社全体の方針として浸透し、実効性が生まれます。
(2)社内の意識改革には「経営層の行動」が最も効果的だから
健康経営を根付かせるには、従業員や管理職一人ひとりの意識改革が不可欠です。
しかし、多忙な現場では「健康より業務優先」という意識が根強く、現場発信だけでは限界があります。
ここで重要なのが、経営層が率先して行動で示すことです。
例えば、
- 健康について語るトップメッセージを発信する
- 経営層自身が健康施策に参加する
- 健康施策への参加を経営層から呼びかける
こうした経営層の関与によって、「これは本当に重要なことなのだ」と社内の空気が変わり、健康経営が一過性のイベントではなく、会社の文化として定着していきます。
(3)社外への信頼・評価にも直結するから
今や、健康経営への取り組みは社外からも重要な評価ポイントになっています。
具体的には、
- 健康経営優良法人(ホワイト500)
- 統合報告書での健康経営開示
- ESG投資家からの評価向上
- 採用市場における企業イメージ向上
など、健康経営は企業の社会的信用や競争力に直結しています。
このような外部評価の獲得には、単なる施策実施だけでなく、「経営層の本気度」が問われます。
経営層が明確なリーダーシップを示すことで、社内外に「この会社は本気で従業員を大切にしている」というメッセージが届くのです。
2.経営層の関与を高めるための働きかけ方
それでは、経営層に本気で健康経営に関わってもらうためには、どのような働きかけを行えばよいのでしょうか。もちろん、経営層が最初から高い意識を持ち、トップダウンで健康経営を推進するケースもあります。しかし現実には、健康経営の認定取得には関心があるものの、推進は担当者任せになっているケースも少なくありません。
本稿では、そのような状況を想定し、担当者が主体となって経営層を巻き込み、健康経営を会社全体の取り組みへと進化させるためのアプローチについて、4つのステップに分けて解説していきます。
【STEP1】健康経営を「会社の成長戦略」として理解してもらう
経営層を巻き込むために、まず取り組むべきは健康経営の目的意識を再定義し、正しく認識してもらうことです。単に認定取得を目的とした取り組みでも、福利厚生の延長線上にある施策でもなく、健康経営は会社の成長戦略そのものであることを、経営層に強く意識づける必要があります。
そのために効果的なアプローチは、次の2つです。
まず、他社事例を紹介することです。
特に、自社がベンチマークとして意識している企業や競合他社における、健康経営の位置づけや具体的な取り組み内容を提示します。
加えて、健康経営に取り組む企業全体の統計データを活用し、たとえば「取り組み企業では生産性向上や離職率低下といった実感効果が得られている」といったエビデンスを示すことも有効です。
こうした事例やデータを通じて、健康経営が単なる施策ではなく成長基盤の一部であるという認識を醸成していきます。
次に、自社データを用いて健康課題による会社成長への影響を可視化することです。
健康診断結果、ストレスチェック、従業員向け健康アンケートなどのデータを分析し、どのような健康課題が存在しているか、それが労働生産性低下や離職リスクにどう関与しているかを具体的に示します。
健康課題が放置されることによって、目に見えない形で経営損失が積み重なっている現実を数字で可視化することで、経営層に「健康経営はもはや選択肢ではなく、不可避の経営課題である」と認識してもらうことが可能になります。
【STEP2】経営層の「役割」を明確に設定する
経営層に健康経営の目的意識を正しく再定義してもらった後は、具体的にどのように関与してもらうのかを明確に伝えることが重要です。
単に「応援してください」と曖昧な依頼をするだけでは、経営層自身もどう行動すべきか判断できず、結果として関与が形骸化してしまう恐れがあります。
そこで、推進担当者は、期待する行動を具体的に提示し、協力を依頼することが求められます。例えば、
- 会社としての健康経営方針を明確に発信してもらう
- 自身の健康に対する課題意識や思いを、従業員に直接伝えてもらう
- 従業員向けの健康イベントや施策に積極的に参加してもらう
- 参加率が伸び悩んでいる施策について、経営層から告知・後押しのメッセージを発信してもらう
といった具体的な関与内容を、一つひとつ明確に設定することがポイントです。
経営層が自らメッセージを発信し、行動で関与する姿勢を示すことで、従業員にとって健康経営が「経営の本気の取り組み」であることが伝わりやすくなります。
結果として、従業員の理解や共感を得やすくなり、健康経営の社内浸透が大きく進む効果が期待できます。
なお、次章では、実際に先進企業で経営層がどのように健康経営に関与し、社内浸透を後押ししているかの具体的な事例をご紹介します。
【STEP3】経営層の発信による効果をフィードバックする
経営層に具体的な役割を担ってもらい、健康経営に関する発信や行動を起こしてもらった後は、その効果を必ずフィードバックすることが重要です。
発信や関与が実際に社内にどのようなポジティブな変化をもたらしたかを可視化し、経営層に伝えることで、「自分の関与には意味がある」という実感を持ってもらい、さらなる関与意欲を引き出すことができます。
具体的には、次のような変化を数値や事例で報告すると効果的です。
- 健康経営に対する従業員の賛同割合が増加した
- 健康施策への従業員の参加率が向上した
- 健康経営に対する従業員からのポジティブな意見・コメントが増えた
たとえば、従業員アンケートで「経営層の健康メッセージを受けて、健康への意識が高まった」と回答する従業員が増えたり、イベント参加者数が前回比で大幅に増加したといった成果を具体的に示すことが有効です。
フィードバックは、数値だけでなく、従業員の声や具体的なエピソードを交えて伝えると、より経営層の心に響きます。
「従業員の変化を実感できる」ことが、経営層にとって最大のモチベーションになります。
このフィードバックサイクルを繰り返すことで、経営層の関与は一時的なものに留まらず、継続的なリーダーシップ発揮へとつながっていきます。
【STEP4】社外への「見える化」でコミットメントを高める
経営層の関与を継続的なものとし、さらに企業価値向上へとつなげていくためには、社外への発信による「見える化」が重要な役割を果たします。
経営層の健康経営へのコミットメントや、会社全体としての取り組み成果を積極的に社外へ発信することで、企業としての信頼性やブランド価値を高めることができます。
具体的には、会社ホームページや統合報告書などの対外的な媒体を活用し、健康経営に対する経営層のメッセージや、取り組みの成果を発信することが効果的です。
たとえば、
- 経営トップからの健康経営に対する思いと方針メッセージ
- 健康経営に関連する施策の実績
- 健康経営に関する認定取得実績と今後の目標
といった内容を、社外向けに整理し、積極的に情報発信していきます。
社外への見える化は、単なる広報活動に留まらず、
- 投資家や取引先からの信頼向上(ESG評価への貢献)
- 優秀な人材採用における企業アピール
- 従業員の誇りやモチベーション向上(自社が社会的に評価されることへの意識)
といった多方面へのプラス効果をもたらします。また、発信することで経営層自身も「社会に向けて宣言した以上、より本気で取り組む」という意識を強めることにもつながります。
3.健康経営の社内浸透に向けた経営層の関与事例
この章では、先進企業において経営層がどのように健康経営に関与し、社内への浸透を後押ししているかについて、具体的な事例をご紹介します。
経営層による関与のアプローチは大きく2つに整理できます。
ひとつは、健康づくりに対するメッセージを積極的に発信すること、もうひとつは、自ら健康施策への参加を促進することです。
それぞれのアプローチが、従業員の意識変化や施策への参加促進にどのように効果を発揮しているか、具体例を通じて見ていきましょう。
経営層から健康づくりに対するメッセージを発信している事例
健康経営を社内に浸透させるためには、経営層が一度だけメッセージを発するだけでは十分ではありません。
繰り返し発信し続けることによって、従業員一人ひとりの意識に健康経営の重要性が定着していきます。
各社では、発信の「形式」「スタイル」「機会・媒体」を工夫しながら、継続的なメッセージ発信を行っています。
メッセージ発信の多様な工夫
- 形式
スピーチ、動画、文章など、伝え方はさまざま。 - スタイル
経営層自ら語る、対談形式で話す、インタビューに応じるなど、親しみやリアリティを感じられる形で発信。 - 機会・媒体
従業員総会、事業所巡視時のスピーチ、イントラネット掲載、社内報特集、社内DM(ダイレクトメール)など、多様な場面を活用。
こうした工夫を通じて、単なるお題目ではない、経営層自身の本気度を伝えることがポイントとなっています。
具体的な先進事例
- 株式会社堀場製作所
経営トップが、自身の日々の健康づくりの実践内容や、心身の健康づくりに対するコツ、従業員への激励メッセージを、社内ポータルサイトを通じて発信。
トップのリアルな姿勢を示すことで、従業員の健康意識を高めています。 - パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社
最高健康責任者(CHO)が、健康をテーマに経営メンバーや社内有識者と毎月対談し、その内容を社内報で発信。
対話形式で親しみやすいメッセージを届け、継続的な関心喚起につなげています。 - 日本国土開発株式会社
役員が順番に『健康メッセージ』を配信。
役員それぞれが、自らの運動習慣や健康に対する思いを語ることで、従業員との距離を縮めつつ、健康意識の向上を図っています。
経営層自ら健康施策への参加を促進している事例
健康経営の浸透を図る上で、経営層がリーダーシップを発揮し、健康施策の旗振り役となることは非常に効果的です。
経営層が自ら関与することで、会社全体に「本気で取り組んでいる」という空気が生まれ、従業員の参加意識やモチベーションも大きく高まります。
健康経営に割けるリソースには限りがあるものの、全社的に盛り上げたい施策や、特にテコ入れを図りたい施策については、優先的に経営層の協力を仰ぐことが重要です。
経営層の関わり方は、大きく以下の4パターンに分類できます。
- 経営層が施策に一緒に参加し、場を盛り上げる
- 経営層が施策に先行参加し、体験談をもとに輪を広げる
- 経営層から施策推進の方針を発信し、協力・参加を呼びかける
- 経営層から特定の従業員に対して、個別に施策参加を促す
これらのアプローチにより、施策への関心と参加率を高めることが可能になります。
具体的な先進事例
- 東芝産業機器システム株式会社
ウォーキングイベントにおいて、チーム賞や個人賞、組合賞など多数の副賞を用意。
特に個人賞では「社長・役員の前後賞」を設定し、社長・役員も毎週の順位報告で公開されるなど、楽しい仕掛けで従業員と一緒に盛り上がり、参加促進を図っています。 - 大王製紙株式会社
取締役、監査役、執行役員が禁煙に挑戦する「役員禁煙チャレンジ」を実施。
経営層自らが健康行動に取り組む姿を示し、最終的に全員が卒煙に成功しました。従業員にも健康意識を高める大きなインパクトを与えています。 - 株式会社日産フィナンシャルサービス
健康経営チャレンジの企画募集を経営トップから直接発信。
さらに、健康強化月間を毎年設定し、全社一体となった取り組みを推進。
継続的なトップの働きかけにより、健康イベントへの従業員の参加意識も着実に高まっています。 - 朝日航洋株式会社
産業医と連携し、生活習慣病高リスク者に対して社長名で禁煙勧奨レターを送付。
また、健康年齢が実年齢より10歳以上高い従業員に対しても、改善を促す個別レターを送付しています。
これにより、喫煙率低下や健康年齢の改善を図り、医療費抑制にもつなげています。
4.WILLEEによる経営層の関与強化支援について
健康経営の推進を伴走支援するWILLEEでは、本稿でご紹介したポイントを踏まえながら、経営層の関与を高め、健康経営の本気度を引き出すサポートを行っています。
具体的には、以下のような支援をご提供しています。
- 【STEP1】健康経営を「会社の成長戦略」として理解してもらう
ベンチマーク企業の取り組み整理や、お客様の健康課題の分析・可視化を行い、経営層向けの説明資料作成までサポートします。必要に応じて、経営層との個別打ち合わせにも同席し、直接支援を行っています。 - 【STEP2】経営層の「役割」を明確に設定する
経営層にメッセージ発信を依頼するための企画資料作成に加え、実際のインタビュー、記事作成、動画制作など、発信コンテンツの具体化まで支援します。 - 【STEP3】経営層の発信による効果をフィードバックする
健康経営の浸透状況や施策参加率の変化を定量的に測定し、さらなる効果創出に向けた改善提案を行います。あわせて、経営層へのフィードバック用報告資料の作成も支援します。 - 【STEP4】社外への「見える化」でコミットメントを高める
健康経営度調査の社外開示要件を踏まえつつ、企業の想いや取り組み成果をわかりやすく伝えるための開示用原稿作成をサポートします。ホームページや統合報告書など、各媒体に合わせた表現の工夫もご提案可能です。
経営層の関与をより高め、健康経営の推進力を強化したいとお考えの企業様は、ぜひWILLEEにご相談ください。
皆様の健康経営の成功に向けて、全力でサポートいたします。