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2022/10/09

健康経営を通じて業務パフォーマンスをどう改善するか

令和4年度健康経営度調査より、業務パフォーマンスの改善が問われる設問が強化されました。業務パフォーマンスの経年での改善効果、その改善ストーリーをストーリー立てて説明する記述、健康施策との相関関係・因果関係に関する定量・統計的な検証などが盛り込まれています。
しかし、具体的にどのように業務パフォーマンスの改善を導いていけば良いのか、明確なガイドライン等が示されていない中においては、今後の取組みの方向性を考えるうえで困っている健康経営推進担当者も多いことと思います。
本稿では、そのお悩み解決の一助としていただくべく、業務パフォーマンス改善が求められている理由や、その構造、改善アプローチについて解説します。

1.健康経営でなぜ業務パフォーマンス改善が求められるのか

経済産業省によると、「健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義されています。

会社経営の立場からすると、従業員の健康に関して資金を投下して取組む以上、単に社員の喫煙率が下がった、肥満者が減った、という効果だけでは、会社の収益性等を高められているのかが見えません。会社経営をサポートしている投資家等への説明責任も果たしきれません。

健康投資を行った結果、会社全体の合計欠勤・休職日数が減った(もしくは低い状態で維持できている)、社員の生産性が上がった(もしくは高い状態で維持できている)など、会社の収益性等の向上に繋がる効果をしっかりと出していくことが必要なのです。

出所:経済産業省「第6回健康投資ワーキンググループ 資料2:事務局説明資料(今年度の健康経営表彰制度の設計等について)」

業務パフォーマンスに効果がしっかりと出ていることが示せれば、投資家を含む会社経営を支えるステークホルダーにも理解を得ながら、健康投資をさらに強化し、業務パフォーマンスを更に改善・維持していくというポジティブループを回していくことに繋がっていきます。

業務パフォーマンスと言っても健康づくり以外の要素も大きいよね、と思う方もいらっしゃるかもしれません。そのあたりの構造を簡単に次章で説明できればと思います。

2.健康経営における業務パフォーマンスの構造

業務パフォーマンスを発揮できている状態とは、どのような状態でしょうか。

社員1人ひとりが持てるリソースや能力を最大限活用・発揮し、行動量を上げている、効率良く業務を遂行している、新しいアイデア・イノベーションを生み出している、などの成果を出している状態を指すかと思います。

そのため、業務パフォーマンスが発揮できているかを直接的に測るには、商談数、業務処理件数、新規アイデア提案数、売上、などの指標で測ることになるかと思いますが、社員1人ひとりの置かれた役割・仕事内容によってその指標は異なってきます。

そこでこの業務パフォーマンスが発揮できている状態を2段構造で考えると以下のようになります。

PC・スマホのパフォーマンスを例にとると、年々CPUやメモリ・ストレージ、カメラ性能といったスペックは進化を遂げていますが、そもそもウイルス感染や破損や汚れなどあると、せっかく高いスペックを有していたとしても、本来のパフォーマンスが発揮できません。

これと同様に、従業員が日々、業務のナレッジやノウハウ、スキルを身につけていっても、欠勤や休職が長引く、日々のコンディションが低下する、仕事への活力や熱意が低下、没頭することも減ると、どれだけ高い能力があったとしても、パフォーマンスを発揮することができません。

そのため、この2段構造の土台となるところを、健康経営によって改善していくことが不可欠であり、それを表わす指標として、アブセンティーズム、プレゼンティーズム、ワークエンゲージメント、の3つが着目されています。

「業務パフォーマンスを表わす指標」は何かと問われると、上述の商談数、業務処理件数、新規アイデア提案数、売上、と言った指標になろうかと思います。

そのため、アブセンティーズム、プレゼンティーズム、ワークエンゲージメントは、「業務パフォーマンスを改善する土台指標」と言っても良いかもしれません。

次章では、「業務パフォーマンスを改善する土台指標」である上記3指標を改善するアプローチについて触れていきます。

3.健康経営を通じた業務パフォーマンス改善アプローチ

ワークエンゲージメントはアブセンティーズム・プレゼンティーズムにも影響を与える

まず、アブセンティーズム、プレゼンティーズムに対して、ワークエンゲージメントが影響を与えている件について触れたいと思います。

下の図は「仕事の要求度・資源モデル」という海外の研究で提唱されたもので、厚生労働省がそれを基にワークエンゲージメントと他のアウトカム指標の相関関係を分析し、整理・作成した関係図になります。


出所:厚生労働省「令和元年度版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」

こちらのモデルによると、仕事の要求度が高くても、仕事の資源や個人の資源が高ければ、ワークエンゲージメントは高くなるということが示されています。

また、ワークエンゲージメントが高まるほど、仕事のパフォーマンスの向上や離職率の低下、健康増進などにポジティブな影響を与えます。

感覚的な説明になりますが、仕事の要求度が高くても、仕事の裁量が与えられていたり、上司からのサポートやフィードバックなどがしっかりあったり、成長機会を感じられていたりすると、仕事に対してポジティブな感情をいだくようになり、欠勤や休職に陥ることなく継続して仕事に取組むようになります(アブセンティーズムの損失が抑制される)。

また、自身の仕事を達成したい、成果を最大化したいという気持ちが、自身のコンディション作りにもプラスに働き、高い生産性を維持して仕事に取組むようになります(プレゼンティーズムの損失が抑制される)。

実際、弊社がコンサルティングサポートを行っているお客様において、ワークエンゲージメントの高低が、WHO-HPQという手法で測定したアブセンティーズム損失の高低、絶対的プレゼンティーズム損失の高低と相関していました。そのような結果を踏まえ、ワークエンゲージメントを如何に高めるかという視点でも、取組みを強化しています。

必要なのは、個人向けに加え職場向けアプローチ

健康経営で求められているアブセンティーズムやプレゼンティーズムの損失を改善していくために、多くの企業では個人向けアプローチの取組みを行っていますが、まだまだ強化余地が残されています。

また一方で、ワークエンゲージメント改善に繋がる職場向けアプローチの取組みを十分に行えている会社は一握りで、個人向けアプローチ以上に強化余地が大きく残されている状況であると理解しています。

個人向けアプローチ

長期欠勤・休職者を減らすために、また社員のコンディションを上げていくために、個人向けアプローチとして、例えば以下のような取組みが行われています。

健康経営に取組む企業であれば、すでに一定の取組みは進んでいるかと思いますが、ベストプラクティスを学ぶことで、更なる強化を進めていけるものと考えています。

今後別なコラムで書いていけたらと思っていますので、ここでは割愛いたします。

職場向けアプローチ

仕事の要求度-資源モデルで示されているように、仕事の要求度を適切にコントロールし、個人の資源、職場の資源を高めていくアプローチになります。

すでに会社内の別部門が主導し、エンゲージメントサーベイに基づく職場改善に取組まれている場合は、その取組みを是非継続していただくのが良いかと思います。

しかしそのような取組みがない場合は、健康経営推進担当部署がストレスチェックの集団分析レポートを活用して、主体的に推進していくことが望ましいと考えています。

ストレスチェックは、昨今多くの会社において、80設問版で実施されるようになりました。80設問版は、仕事の負担(=要求度)、仕事の資源(作業レベル、部署レベル、事業場レベル)、いきいきアウトカム等に関する設問で構成され、これを使わない手はありません。

設問構造の詳細は以下の通りになります。

職場単位で、仕事の負担(赤色)を適正化しつつ、仕事の資源(青色、緑色※)をどう高められるかを検討・実践していけると、ワークエンゲージメントの改善に繋がっていきます。

「わが社は高ストレス者が少ないので」「総合健康リスク値が低いので」という理由で、特に職場改善の取組みを行っていないというお話もよく伺います。しかし、ストレスチェック80設問は、ワークエンゲージメントを高めていくというポジティブな使い方のできる優れたサーベイであるため、是非有効活用いただくことを願っています。

なお、ストレスチェック集団分析を踏まえた職場向けのアプローチとしては、以下のような方法に分類されます。

一部職場向けでは、高リスク職場を中心に取組みを行うことが考えられますが、ポジティブに全社のワークエンゲージメントを上げていくのであれば、全職場を対象とした取組みを行っていく方が当然効果は高まります。

詳細の実施方法や先行事例、弊社サポート事例についてもご紹介できるため、もし気になるお取組みがあれば、お問い合わせください。

4.まとめ

本コラムでは、健康経営の取組みを通じた改善が今まで以上に求められるようになった業務パフォーマンスを取り上げ、その改善が求められている理由や、改善アプローチについて解説しました。

最もお伝えしたかったのは、ストレスチェック結果を活用しながら職場改善に取り組むことでエンゲージメントが向上し、それがアブセンティーズムやプレゼンティーズムの改善にも寄与する、ということでした。各職場の管理職を動かすのは大変ではありますが、果実は非常に大きいため、是非今後のご参考にしていただけると幸いです。

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