1919年創業、大手化学メーカーの株式会社ダイセル(東証プライム上場)は、世界14の国と地域で事業を展開するグローバル企業である。(2023年3月末時点)
同社は、2018年に本格的に健康経営をスタートさせ、経済産業省と日本健康会議が認定する「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500」を4年連続で取得。
WILLEE代表の田澤は、前職時代の2021年からダイセルの健康経営の推進を支援し、2022年6月からWILLEEとして伴走支援を続けている。
今回はグループ健康サポートセンター所長の西村様、同センター所長補佐の斎藤様(保健師)、実務推進担当の北條様に、ダイセルの健康経営の取り組みについて語ってもらった。
メンタルヘルス対策の歩みを礎とし、中期戦略の下で加速し始めた健康経営
―現在、ダイセルでは健康経営をどのような位置付けでお考えでしょうか。これまでの取り組みやその背景も踏まえて教えていただけますか。
西村:当社がメンタルヘルス対策に本格的に取り組み始めたのが1999年です。1990年代前半、事業構造の転換に伴う配置転換などによって職場に適応できずメンタルヘルスに不調をきたす従業員が少なくありませんでした。
同時に、日本社会ではバブルの崩壊で自殺者数が3万人を超えており、会社としてもメンタルヘルス対策は喫緊の課題だと考えていたのです。そこでストレスチェックの前身ともいえる“働く人の心の定期健康診断(JMI)”の実施を始めました。
当社で初めて保健師を採用したのが2001年(2023年現在は13人体制)です。その後、2003年に全社の健康づくりを推進する中央ヘルスケア委員会、それと合わせて事業場ごとの事業場ヘルスケア委員会を発足しました。
これらの組織が何をしているかと言うと、まず中央ヘルスケア委員会で、会社、労働組合、健康保険組合の三者が一体となり全社の取り組みを考えます。そして、その取り組みを事業場ごとにどう推進するか、事業場ヘルスケア委員会で検討する体制になっています。
また、2003年には保健師が中心となって“こころとからだのストレス攻略読本”というハンドブックを作成し全社員に配布。2007年には精神科医との委託契約も開始しています。
さらに、2013年から保健師の方に東京大学大学院で開講される職場のメンタルヘルス専門家養成コースを受けてもらい、職場復帰支援マニュアルを作成しました。
その後、2016年に義務化されたストレスチェックをはじめ、ラインケア研修、セルフケア研修なども実施。そして、2018年にダイセルグループ健康経営宣言をおこない、2020年からは4年連続で「ホワイト500」を取得しています。
―以前から意識高く取り組まれていらっしゃるのですね。そして、2021年度からさらに健康経営に力を入れられているとのことですが。
西村:そうですね。ダイセルでは長期ビジョン・中期戦略における循環型社会構築への貢献に向けて、製品(Product)、製造プロセス(Process)、働く人(People)という3つの側面からサスティナビリティの実現を目指しています。
どういうことかと言うと、お客様に製品を届けるためには、ただ良いものを作るだけでなく、その製造プロセスも安心安全であり、さらに働く人たちも幸せであることが大事だと当社では考えているからです。
その1つ、サステナブルPeopleを実現するにあたって、当然、働きやすい職場環境づくりやDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の推進は欠かせません。その基盤となるのが働く人々の心と体の健康です。
そうした背景から、これまでの人事施策の延長線上ではなく、新たな施策として健康経営に関して2021年に中期戦略をつくり、会社が目指すサステナブルPeopleに貢献できる取り組みを始めたというわけです。
事業場間の情報連携ができていなかった。施策がやりっぱなしで終わってしまうことも
―2021年4月に西村さんが事業支援本部人事グループに異動され、本格的に健康経営に取り組まれています。それ以前に課題はありましたか?
斎藤:以前は、各事業場の保健師はそれぞれ独自のやり方で取り組んでいたんです。そのため、他の事業場の保健師たちが何に悩んでいるか分からない状態。そうこうしているうちにサポートが遅れてしまい困難な事案に繋がってしまうこともありました。
北條:また、研修やイベント、プログラムなどいろいろ手がけてはいましたが、実施することばかりに終始しており、目的や効果の検証までは十分できていなかったんです。
2017年度、そして2019年度からは毎年「ホワイト500」の認定を受けていますが、振り返ると、当時は今とは異なり「何とか認定をもらえている」といった状況だったと思います。
―この2年間で、どのような取り組みがあったのでしょうか?
西村:まずは、2025年度に向けた「健康経営中期戦略」を作成し、2022年4月に事業支援本部に「グループ健康サポートセンター」を設立しました。
また、「ココロとカラダの健康づくりワークショップ」をはじめとした健康施策の強化や、各種施策の実施に伴う効果検証・改善、ダイセル社とグループ会社のポリプラスチックス社一体での「ホワイト500」認定を目指した取り組みなどをおこなってきました。
これらはすべて田澤さんのサポートを得ながら進めてきました。
推進体制に一体感が生まれ、健康経営に対する意識が上がった。CAPDもしっかりと回るようになった
―そういった取り組みを通じて、どのような変化がありましたか?
西村:グループ健康サポートセンター設立に合わせて、事業場ごとに配置されている保健師を兼務所属としたんです。その結果、保健師同士の一体感が生まれ、情報連携がスムーズになったおかげで何か問題が発生しても組織としてすぐに対応できる体制になりました。
斎藤:そうですね。保健師同士で頻繁にミーティングを開いて「今、こういうことに困っている」「こういうことを始めようと思っている」などを共有し合い、孤立しないように声かけすることが非常にやりやすくなりました。
北條:戦略マップやそれに紐づく計画ができて、事業場ヘルスケア委員会の事務局研修なども行うようになったこともあり、事業場ごとの意識も以前よりも格段に上がっていると思います。今まで大阪本社と東京本社でもそれぞれで施策を実施していましたが、昨年からは大阪と東京合同で色々と一緒に進めていこうという風土になっており、一体感が生まれています。
また、以前は施策のアンケート結果などもザっと見て終わっていたのですが、田澤さんが効果検証をサポートしてくれているおかげで、新たな気付きを得ることができています。しっかりとCAPDを回していくというのが、2年前と比べたら格段にできるようになったと思います。
―施策を強化したことによる効果などはいかがですか?
北條:以前まではストレスチェックをして、その結果をフィードバックして…と最低限のアクションしかできていませんでした。しかし、田澤さんに良いサービス事業者を紹介してもらい、今では高リスク職場のリーダーに対する外部カウンセラーによるフォローなど、アクションの幅を拡げることができています。
高リスク職場はトラブルも多くなりがちなので、そういった活動が大きなトラブルや労災を未然に防ぐことに繋がるのではないかと思いますし、実際にこの1年で高リスク職場は減りましたね。
斎藤:外部カウンセラーに話を聞いてもらったリーダーが、「抱え込んでいた気持ちが解放された」「思ったことが何でも言えた」と。そこで新たな気付きを得ることに繋がったという声もいただいています。
また、「ココロとカラダの健康づくりワークショップ」は手探りながらも初回からすごく充実していたと思います。初めての試みだったので、「従業員からどんな反応が起きるんだろう」と、保健師たちは不安と期待が入り混じって皆そわそわしていたんです(笑)。田澤さんの進行のおかげで無事に終えることができて良かったです。
田澤:ワークショップは皆で一緒に作り上げた取り組みでしたね。北條さん冒頭仕切りのもと、西村さん、斎藤さん、そして各事業場の保健師さんにもご説明いただくパートがあり、プレゼンは本当に素晴らしいものでした。
その取り組みの中で、ダイセルの保健師さんたちは健康経営に対する意識が高く、前向きにチャレンジされる方たちばかりだと感じました。だからこそ新しい取り組みに対しても、一丸となって向かっていけるのだと思いますね。
ロジカル×コミュニケーション力。バランス感覚が魅力
―そもそも、なぜコンサルに依頼しようと思われたのでしょうか?
西村:私がコンサルに依頼することを提案しました。というのも、私自身システム部門の経験が長く、そこではコンサルタントやシステムベンダーといった外部の人たちのお力をお借りすることがよくあったからです。
もともと私が異動で来る前は、コンサルに依頼をするといった考えはありませんでした。しかし、中期戦略を立てる上では、専門家の意見や外部の知見は欠かせません。加えて、課題を見つけるためには多角的なアプローチができるコンサルとの協業がなければ困難だと感じたのです。
そこで5社のコンサルティングファームから提案をもらった中で、最もダイセルの要件にマッチしていたのが田澤さんが在籍されていた会社だったというわけです。
―2022年6月以降、WILLEEとして田澤さんに継続してサポートを依頼された理由は何でしたか?
西村:それは田澤さんのお人柄でしょう。私は、これまでいろんなコンサルタントと付き合ってきましたが、システムに関する案件にもかかわらず、ロジカルシンキングではないコンサルタントが多いと感じていました。
田澤さんがすごいところは、データをもとにロジックを用いて分かりやすく話をしてくれるところです。もちろんデータ分析が得意なコンサルタントもいますが、逆に頭でっかちになってしまう人もいて。そんな中でも田澤さんは一番バランスが取れている方だと思いますね。
実際、事業場で企画しているスポーツイベントにも運営側で入ってもらうこともあって、まるで同じチームメンバーのように感じていますよ(笑)。
斎藤:保健師のメンバーで合宿をしたときも、一緒に参加してもらって、夕飯もみんなでおしゃべりしながら賑やかに過ごしましたね(笑)。これまでバラバラだった保健師が1つのチームになれたのは、田澤さんのおかげだと思います。
仕事ではタスク管理もおこなっていただいているので、次に何をすればいいのか事細かに教えてくれるんですね。そうすると現場で何が課題なのかが、自分たちでも見えてくるようになります。そうやって成長をサポートしていただけることに感謝しています。
2023年度はダイセルグループ全体を巻き込んだ健康経営に挑戦
―健康経営に関して、精力的に取り組まれている様子が伝わってきました。最後に、今後の健康経営に向けて意気込みをお聞かせください。
西村:「2025年度、グループ全体の健康経営の実現」に向けて、まずは健康経営に関する重要指標の目標値を達成していくこと。そしてダイセルが目指すサステナブルPeople(働く人々の幸せ)に貢献していきたいと思っています。
また今年度から、良い行動習慣や健診結果にインセンティブ支給する健康ポイントの仕組みの導入を予定しています。このような健康を保持・増進できる取り組みを、田澤さんのお知恵をお借りしながら今後も増やしていけたらと考えています。
北條:この2年間は、どちらかと言えばダイセル単体向けの施策が中心でした。2023年度は、これまで以上にグループ会社やステークホルダーの方たちを巻き込みながら、ダイセルグループ一体で健康経営に関するさまざまな施策を取り入れていきたいと思います。
斎藤:従業員の健康診断やストレスチェック、アンケート結果などのデータを詳細に分析できるようになったおかげで、現状の課題や改善点がより具体的に見えるようになりました。そのおかげで会社に対しても現状の課題を提示しやすくなったと思います。
健康経営を更に進化させていくために、今後もデータを活用しながら、会社に対して各現場の実態をしっかり発信していきたいと思いますね。