1.事業所推進担当者の熱量が健康経営の成果を左右する
大企業であればあるほど、事業所ごとに従業員一人ひとりに健康経営・健康施策を落とし込んでいくことが重要です。そして、そのカギを握っているのが、事業所に在籍する健康経営推進担当者(以降、「担当者」)であり、一般的には総務部門の方などが担っているケースが多くあります。
しかしながら、担当者は多様な業務を担っているため、健康経営だけを推進しているわけではありません。そのため、「担当者が協力してくれないんです」「こちらからの一方通行になってしまっていて担当者からレスポンスがないんです」、といった他責で考えることは今すぐやめる必要があります。
事務局である健康経営推進部署の高い熱量を、どのようにしたら担当者に伝播させていくことができるのだろうか?という方向に頭を切り替え、事務局側からのアプローチを変えていくことが重要になります。
担当者へのアプローチ方法を変え、熱量が伝わっていけば、事業所内での健康経営および健康施策の浸透が強化され、施策参加量が上がり、日々の健康行動、その先の健康状態や業務パフォーマンスも向上していくはずです。そして、その積み重ねによって、全社の指標も向上し、健康経営のポジティブな成果を対外的に示していけるようになります。
意義ある健康経営とは、従業員に浸透している健康経営です。
そのためには、従業員のフロントとなる担当者の熱量を如何に高めていくかが極めて重要で、従業員の巻き込みに課題を感じている会社においては、真っ先に力を注ぐべきテーマになります。
(令和5年度健康経営度調査Q36で事業所推進担当者の役割について問われていますが、単に役割を与えるだけでは実が伴いません。)
2.事業所推進担当者の熱量を上げる方策
弊社のお客様には、複数の事業所からなる大手企業様も多く、健康経営の伴走支援のなかで事業所推進担当者を巻き込む体制づくりや会議体運営のご支援も多数行っています。
ここからは、それら支援の中で培ってきた、事業所推進担当者の熱量を上げていく6つのアプローチと15の方策をご紹介します。
こちらの図の通り、アプローチとしては大きく6つあります。
まず事業所推進担当者を巻きこんだ推進体制のスタート時や仕切り直し時は、目的意識・課題意識を高めるとともに、ミッション感(責任・役割)を高めていきます。その土台ができたうえで、施策推進に際して、企画に積極関与させ、成功体験を積ませ、振り返りと学習を促すことを通じて、自分事化していきます。一連の取り組み後には貢献を称えることを通じて熱量を更に高めていきます。
以降では、6つのアプローチに紐づく具体的な15の方策について解説していきます。
1. 健康経営とは何か?を問う
健康経営とは誰の何のために行うのか?従業員に対してどう説明するか?を担当者に考えてもらうことで、健康経営の本質理解を促していく方策です。
「健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」が経済産業省によるごく一般的な説明文ですが、従業員一人ひとりに健康経営を浸透させる役割を担う担当者にとって、それは納得感を生む説明になるでしょうか?実はそのモヤモヤを抱えたまま、健康経営に関わっている担当者は多いです。健康経営が誰の何のために行うのか、を自分の言葉で納得感を持って話せるようになることでこそ、明確な目的意識が生まれてきます。なお、この問いかけを通じて発散した議論を回収するために、事務局として一つの模範解答を持っておくことが重要になります。
2. 健康経営を通じて解決すべき課題に対する理解を促す
会社全体で、ワークエンゲージメントや生産性が低下している従業員や休職者がどれほどいるか、それらが健康状態や健康行動、職場環境とどのような関係があるかを、担当者に対して分かりやすく説明し、健康経営を通じて何を解決していきたいか、理解を促す方策です。
それにより、なぜ従業員個人の健康行動や職場環境等を変えていく必要があるのか、納得感が生まれ、健康経営に取り組む目的意識が向上していきます。なお、会社によっては戦略マップにおいたKPIが多岐に渡ることも多いので、伝えたいことの優先順位を付けながら、定量的に分かりやすく示していくことが重要になります。
3. 事業所の特性について再認識を促す
事業所における従業員属性、働き方や職場環境・風土、健康行動資源などを担当者に振返ってもらうことで、事業所の特性について再認識を促す方策です。
それにより、例えば全社施策の推進の際にも、「事業所の特性を踏まえるとこのように従業員に展開したら良いのではないか?このような施策の調整をした方が良いのではないか?」と、事業所内で浸透を図っていくための検討・工夫が生まれる土壌ができあがります。なお、振り返りを進めていくうえでは、全社共通フォーマットを用意し、事業所側で容易に事業所特性の振り返りができるように取り計らうことが重要です。
4. 事業所別のKPIの現状・課題の深掘りを促す
事業所別の健康行動・健康状態が、他事業所と比較して良いか悪いか、経年でどう変化しているかを見える化し、担当者に考察を促すことで、どうしてそのような状態・状況となっているのか深掘りを促す方策です。
「こういう働き方や職場環境だから、このような状態・状況に陥っているのではないか?」と担当者自身が考えることによって、一方的な説明を受けるだけよりも、強い課題意識が生まれてきます。なお、深い考察を促すうえでは、事業所全体のKPI数値のみならず、年代や職種によるKPI数値の違いを示していくことが重要です。
5. 事業所における従業員の声に対する理解を促す
社内の健康アンケートなどで取得した従業員の声を事業所ごとに切り分け、担当者に共有するとともに、どう感じたかなど担当者に問う機会を設けることで、自事業所の従業員ニーズや課題感に対する理解を深めていく方策です。
それにより、従業員の声に応えていきたいという想いが増し、健康経営に主体的に参画する意欲が高まります。従業員の健康に関する実態が分かりきっていないまま健康経営に関与している担当者も多いため、個人情報の取扱いに配慮しながら、共有できる健康情報・データは可能な限りフィードバックしていくことが重要です。
6. 経営層から期待の声をかける
社長や健康経営推進責任者の役員が、自身がどのような課題意識や想いを持って健康経営に取り組んでいるか、また健康経営の推進に当たって担当者にどのような期待をしているか、を直接伝えることで、担当者の責任感を高めていく方策です。
健康経営が会社の人的資本経営における重要な取り組みであること、自身がその推進における重要な役割を担っていることを再認識することによって、モチベーションが高まります。しかし、よくあるのが、担当者の上席だけが参加する会議体に社長や健康経営推進責任者の役員が参加して発言するケースです。この方法だと上席は直接聞いているものの、担当者自身には間接的に伝わることなり、会社全体の熱量が伝わりきらないことが多くあります。そのため、経営層から担当者に対して「直接伝えること」が重要です。
7. 全社に健康経営の方針理解を図る
全社に対して健康経営の推進方針を伝えるとともに、健康経営に対する優先度が高いことを示していくことにより、担当者の責任感を高めていく方策です。
健康経営に対する従業員の目の色が変わることで、担当者の襟が正されます。そのため、従業員一人ひとりに方針がしっかり伝わるよう、各事業所に足を運んで説明会を行ったり、分かりやすい説明動画やeラーニングを作成・展開したりなど、の取り組みを行うことが重要です。なお、説明内容の一つに推進体制も含みますが、そこに担当者の名前や顔写真などを掲載しておけると、より担当者の責任感が高まるのでおススメです。
8. 担当者が貢献できることが何か理解を促す
戦略マップを用いた説明を通じて、担当者が貢献できるのは事業所における施策の参加量を高めること、事業所における施策の質を高めること、であるという役割意識の共通理解を図っていく方策です。
例えば全社イベントを行う際、事業所の特性に合った方法でのイベント周知や、イベント期間中の盛り上げがなされると、参加者が増え、継続実践者の割合も上がり、イベントの成果が生まれてきます。これができて初めて、戦略マップに配置した指標が左から右に順次改善していきます。なお、担当者がコツをつかむまでは、各施策において具体的に担当者に期待するアクションの例を提示し、行動を促進していくことが重要です。
9. 全社施策に対する検討・意見出しを促す
全社施策の企画概要を担当者に説明し、事業所内で推進するにあたっての懸念点の整理やそれに対する解決策の検討を行ってもらったり、施策を盛り上げるためのアイデアを出してもらったりなどを通じて、全社施策に対する思い入れを高めていく方策です。
企画段階での思い入れが高い施策ほど自分事化するため、従業員に展開してからも状況把握や改善を行っていく気持ちが継続します。
なお、企画に対する意見を求めると、従業員から想定される反発の声などネガティブな側面が多く挙がってくることもよくあります。そのため、施策を先行で体験してもらう、施策のネーミングを一緒に考えてもらう、告知資料に担当者も登場してもらうなど、企画することが楽しいと思える要素を適宜盛り込んでいくことが重要です。
10. 事業所独自施策の検討を促す
事業所固有の課題を踏まえた事業所独自施策の企画・推進を側面サポートしていくことで、担当者の達成感とやりがいを高めていく方策です。
全社施策では事業所ごとに若干のカスタマイズはできても、大きな変更はできません。そのため、事業所固有の課題や従業員の状況を日頃からよく理解している担当者の発案に基づいて事業所独自施策を進めていけると、より効果的な施策になるとともに、担当者の達成感にも繋がります。しかし一方で、きっかけがないと事業所独自施策が進まないのも事実です。そのため、事業所別の健康課題や、事業所でできそうな施策アイデアを提示してあげることで、一歩目を踏み出せるように促していくことが重要です。
11. 施策参加状況のタイムリーな共有と働きかけを促す
担当者に施策の申込・参加状況をシェアし、申込・参加促進の働きかけを行ってもらい、その結果をまたフィードバックすることで、成功体験を通じた自己効力感を高めていく方策です。
健康経営の推進における担当者の自己効力感を高められると、その後の主体的な取り組みが期待できます。そのため、担当者に対して、例えば任意参加型の健康イベントやeラーニングなどにおいて、担当者の働きかけによって申込・参加状況が向上したという成功体験を沢山積ませていくことがポイントです。効果を可視化するためにも、従業員へ働きかけを行う前と後それぞれにおける事業所ごとの申込・参加状況を数値で示していくことが重要です。
12. 施策実施結果について事業所ごとに振り返りを促す
施策に対する従業員の参加状況や施策に参加した従業員の声などを担当者に振り返ってもらうことを通じて学習を促し、モチベーションを高めていく方策です。
施策を実施した結果、何が良かった・うまくいった、何が課題だった・どうすべきだった、など振り返ってもらうことで、次なる施策に活かすモチベーションを高めていくことができます。今後も継続する可能性のある施策、初めて行った施策などについては、振り返りの優先度が高く、また期間を置かずに振り返りを行うことがポイントです。なお、全社施策であればより具体的な振り返りができるように、参加実績やアンケート結果などを事業所ごとに切り分けて提示することが重要です。
13. 事業所間で好事例やナレッジシェアを促す
事業所独自施策の事例や全社施策を推進するうえで上手くいった工夫等のシェアを促し、学習と相互刺激によって担当者のモチベーションを高めていく方策です。
健康経営では推進事項が多岐に渡るためどうしても次なる施策の説明に時間を取りたい気持ちになりますが、施策を行ったら一度立ち止まり、互いに事例や工夫をシェアしていく時間を持つことで、学びを倍増させることができます。そしてその学びは、次なる施策の推進に役立てていくことでき、コツが分かっているからこそ担当者はより楽しんで健康づくりを推進できるようになります。なお、自事業所のことしか分からない担当者にとって、どのようなことをシェアすると他事業所の学びになるかが分かっていないケースがあるため、そのような場合は、事務局側からお題や質問を投げかけて事例や工夫を引き出していくことが重要です。
14. 優れた取り組みを行った事業所を表彰する
健康経営の推進において優れた取り組みを行った事業所に対して、賞を与えたり、社内報で取り上げたりすることで、担当者のモチベーションを高めていく方策です。
多岐に渡る業務を担っている担当者にとって、健康経営の推進業務は人事評価対象のごく一部でしかないケースが多いため、社内での表彰という形で心理的な褒賞を与えていくことが有益です。事務局が独断で選ぶ方法もありますが、優れた取り組みを行っていると感じた事業所を互いに選び合う方法も納得感が生まれるためおススメです。なお、従業員間で盛り上がる施策を行った事業所、大きな成果を出した事業所、他事業所にも横展開できるツール等を共有した事業所など表彰の観点は多数考えられます。担当者が今後どう健康経営に向き合っていけば良いかの一つの道しるべになるため、どのような事業所を表彰するかという観点をしっかりと練ることが重要です。
15. 健康経営度調査の評価を分かち合う
担当者が企画・推進したことや従業員に働きかけことが健康経営度調査でどのような評価に繋がったかを伝え、得られた評価をともに分かち合うことで担当者のモチベーションを高めていく方策です。
健康経営度調査における偏差値向上やホワイト500の認定取得などは経営層の関心事項でもあるため、それが担当者の頑張りによるものであると評価されることは非常に嬉しいことです。調査票の項目は多岐に渡りますが、一つひとつ紐解いていくと、担当者の関与によって推進できた施策があったり、担当者の働きかけによって高められた指標があったりなど、担当者の貢献によるところは多分にあります。そのため、経営層に報告する際にも、〇〇の施策を強化したから、〇〇の指標が高められたからこの偏差値が上がりました、と報告するだけではなく、担当者の関わりも併せて伝えていき、経営層から担当者に対してねぎらいの言葉をかけてもらうように取り計らうことも重要です。
3.WILLEEのご支援ケース
弊社では、本稿でご紹介した15方策を基に、事業所推進担当者を巻き込んだ会議体の運営や、それ以外の日常的なコミュニケーションの内容や質を変えていくサポートを数多く行っています。
会議体の立上げ・見直しに向けては、事務局である健康経営推進部署の方々と以下の点を中心に綿密な事前調整・資料作成等を行っています。
- 事業所推進担当者に提示する情報・データの選別や伝えたいメッセージの検討
- 事業所推進担当者に意見を求める、もしくは討議を促す論点の整理
- 上記を踏まえた会議資料への落とし込み
- 全員参加型会議にするための効果的な進行方法の検討
- 会議における弊社サポート範囲の検討
これにより、事業所推進担当者の熱量を徐々に引き上げ、健康経営の本気度および推進力を確実に向上させています。
「事業所推進担当者を集めた会議を行っても、事務局からの一方的な共有で終わり効果的な場にできていない」という状態から脱却したいお客様は、是非弊社にご相談ください。
※なお、事業所推進担当者の熱量向上に関する弊社サポート事例については以下をご参照ください。