1.アブセンティーズムとは
アブセンティーズムとは、心身の不調が原因で、遅刻や早退、欠勤、休職など従業員が働けない状態を指します。
具体的には、病気、怪我、風邪、不眠、頭痛、抑うつ、不安、モチベーション低下など、さまざまな原因が挙げられます。
健康経営においては、これら心身の不調に繋がる原因を健康投資によって未然に防ぎ、アブセンティーズムを減らしていくわけですが、もしこの対策が行われていなかったらどうなるでしょうか。
人材確保が難しくなってきている現在においては、心身の不調に伴い働けなくなる社員が出てしまうと、その周囲が業務の肩代わりし、負荷を背負うことになります。そして、その負荷が過度になり、会社や職場のサポートがないと、働けなくなる社員が更に出てしまいます。
この悪いスパイラルが続いていくと、最終的には事業の停止や廃止といったことまで陥ることも想定されます。
非常にネガティブな話ですが、こうならないためにも、適切な健康投資を行い、その結果としてアブセンティーズムがどのような状況になっているか、継続的にモニタリングしていく必要があります。
健康経営度調査を通じて初めてアブセンティーズムを知ったという方も多いかもしれません。
しかし、サステナブルな企業経営のためには、アブセンティーズムを測定して、継続的にモニタリングし、その抑制に向けた健康投資を考えもしくは見直し、実行するといったCAPDを回すことは当たり前に取組むべきことなのです。
2.健康経営度調査で問われるアブセンティーズムに関する4つのこと
前章でご説明した通り、サステナブルな企業経営のためにCAPDを回すべきアブセンティーズムですが、健康経営度調査では以下に示す通り、4つのことが問われています。
幾つかの設問に分かれていますが、段階的に整理すると、1.測定→2.開示→3.効果検証→4.経年開示の4ステップに分けることができます。
1stステップとして問われるのが、アブセンティーズムを測定しているかです。
そして、2ndステップとしては、測定したアブセンティーズムを社外に開示しているか。ここまでは単年度の結果でも構いません。
3rdステップになると、アブセンティーズムを経年で測定したうえで、健康投資に対するアブセンティーズムの改善効果を検証しているかが問われます。
そして4thステップでは、その検証結果をストーリー立てて説明するとともに、経年でのアブセンティーズムの変化を社外に開示することが求められています。
前述のアブセンティーズムのCAPDを回せていれば、調査票で問われていることに対してスムーズに回答していくことができるはずです。
参考リンク:令和4年度健康経営度調査【サンプル】
3.アブセンティーズム測定に活用できる3種類のデータ
ここからは、アブセンティーズムの測定に向けて、活用できるデータとして何があるか、そのデータを用いてどう指標化するか、の2つの論点について、解説していきます。
まず、アブセンティーズムの測定に活用できるデータについてですが、その話をする前に、働けない状態における休み方を簡単に振り返ります。
働けない状態になったとき、まずは有給を使って休むことが考えられます。そしてその次、有給がなければ欠勤扱いで休むことになります。そして、心身の健康状態が悪ければ休職扱いで休むことになります。
企業によって細かな制度詳細は異なりますが、このように大きく分けて3つの休み方があります。
上記を踏まえ、アブセンティーズム(=働けない状態)を測定するためのデータについて解説します。
欠勤や休職については会社として管理している欠勤データ、休職データを活用することで正確に測定することができます。
しかしながら、欠勤データ、休職データだけでは、有給を使ったちょっとした休み(体調不良による半休、風邪による数日の休暇など)は把握することができません。
もしそこまでを全体網羅する場合は、アンケートを通じて新規にデータ取得する必要があります。
このように3つの活用可能なデータがある中で、健康経営に取り組んでいる各社がどのデータを活用しているかを示したのが以下のグラフです。
これを見ると、健康経営優良法人、ホワイト500、健康経営銘柄いずれであっても、欠勤データ、休職データを活用している割合が6割~8割と高い状況であることが分かります。欠勤・休職両方のデータをアブセンティーズムの測定に活用しているケースも多そうです。
一方、アンケートを通じてデータ取得を行っている割合も2割~3割程度おり、体調不良等による有給休暇を含めてアブセンティーズムを測定しているものと思われます。
4.アブセンティーズム測定に向けた7つの指標化方法
7つの指標化方法
ここでは、前述の活用データを基に、アブセンティーズムをどう指標化するかについて解説します。
指標化の方法は体系的に整理すると、以下に示す通り、7つの指標化方法があります。
大きく分けて、人数を指標化に用いるか、日数を用いるかで分岐します。
人数の方から解説すると、[1]人数合計を指標とすることもできますし、[2]人数割合に置きなおして指標とすることもできます。
[1]人数合計:会社で基準を決めて該当人数を算出したもの。年間で1日以上休みがあった社員数とする、より細かいデータがあるもしくは取得できるのであれば、年間で1時間以上休みがあった社員数とする、なども考えられる。
[2]人数割合:[1]人数合計÷全社員数により割合化したもの。
日数の方については、[3]日数合計を指標とすることもできますし、[4]1人当たり日数や[5]日数割合に置きなおして指標とすることもできます。また[6]損失額を算出して指標とすることも可能です。
[3]日数合計:全社員の休みの日数合計を算出したもの。
[4]1人当たり日数:[3]日数合計÷全社員数により1人当たりに置きなおしたもの。
[5]日数割合:[3]日数合計÷全社員の所定労働日数合計により割合化したもの。
[6]損失額:[4]1人当たり日数×全社員数×平均日給、もしくは[5]日数割合×全社員数×平均年収により算出したもの。
そして、[1]~[6]いずれも数値をそのまま開示したくない場合などは、ある時点の数値を100と置き、それの基づく指数を指標とすることもできます。それが[7]相対指数化です。
健康経営銘柄における指標化方法詳細
以上の7つの指標化方法を踏まえ、健康経営銘柄2023の選定企業26社※がどのような指標化を具体的に行っているかを整理したものが以下になります。
※健康経営銘柄は49社ありますが、各社のホームページ等でアブセンティーズムの数値が確認できたのが28社、そのうち指標化方法も確認できたのが26社でした。
これを見ると、[4]1人当たり日数を指標化している企業が最も多く11社、次いで[2]人数割合を指標化している企業が5社という状況でした。
各社ごとの具体的な指標化方法においては、定義がそれぞれ異なっており、全く同じ指標化方法を取っているケースは非常に少ないことが分かりました。銘柄企業だからこそ、細部にこだわって設計しているものと考えられます。
改善感度の良い指標化方法
本稿では詳細を示しませんが、アブセンティーズムの数値を経年で開示していた健康経営銘柄企業は21社あり、そのうち数値が改善していた企業は5社存在しました。
そして、この5社の指標化方法には共通する特徴があったため、健康経営推進レベルの高い企業において、改善感度の良い指標化方法があることが理解できました。
またそれを踏まえると、健康経営推進レベルをこれから上げていく段階の企業においても、改善感度の良い指標化方法はこれだろうと思われる仮説が立ちます。
しかしながら、まだ検証が不十分のため、今後更なる深掘りを行い、何らかの形で発信していきたいと考えています。
5.まとめ
本稿でお伝えしたことをまとめると以下の通りです。
- サステナブルな企業経営のためには、アブセンティーズムを測定して、継続的にモニタリングし、その抑制に向けた健康投資を考えもしくは見直し、実行するといったCAPDを回すことは当たり前に取組むべきことである。
- 健康経営度調査では、アブセンティーズムの1.測定→2.開示→3.効果検証→4.経年開示の4つが問われている。
- アブセンディーズムの測定においては、①アンケートデータ、②欠勤データ、③休職データの3つを活用することができる。
- アブセンティーズムの測定に向けて7つの指標化方法があり、健康経営銘柄においても各社ごとに詳細な定義を設定している。
- 健康経営レベルによって、改善感度の良い指標化方法も存在している。
今後のアブセンティーズムの測定方法の検討や見直しに是非お役立ちいただけると幸いです。
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