1.健康管理の現場で起こっていること
人的資本経営が叫ばれるようになった令和4年度、健康経営優良法人の認定申請料が有料になったにもかかわらず、大規模法人部門では健康経営度調査回答数が3,186件(前年度+299件)、中小規模法人では認定申請数が14,430件(前年度+1,581件)となり、継続的な裾野の拡がりを見せました。
※出所:経済産業省 第7回健康投資ワーキンググループ 事務局説明資料①
またそれに伴い、経年で健康経営に取り組んでいる企業等においては、ホワイト500やブライト500を目指してレベルアップを図るべく、取組みを強化されており、相互に切磋琢磨しながらより良い方向に健康経営を進めつつあります。
しかしながら一方で、健康管理業務の統一化や効率化が図れていないことが理由で、健康経営を思うように進められていない企業や、今後の健康経営の取組み強化・推進に不安がある企業が多く存在しているのも事実です。
大企業であればあるほど、多くの拠点において産業看護職が活躍していますが、過去からの企業統廃合などの歴史を経て現行の拠点体制となっています。
そのため、拠点間で産業看護職が担っている健康管理業務の範囲や内容、実施方法や回数、時期などがバラバラであったり、拠点間連携がないため共通化できる業務も各拠点それぞれで実施していたりなど、健康経営としての取組み強化を進めていく上での土台ができていないケースがよくあります。
そのような状況で、例えば禁煙の推進や、若年層のメタボ対策など、本社で数値目標を定めて各拠点に取組みを強化するよう協力を求めても、思うような進捗は期待できません。
健康経営を着実に進めていくためには、推進基盤として、健康管理業務の統一化や効率化がなされている必要があるのです。
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2.健康管理業務改善のためのフレームワーク『ECRSの4原則』
健康経営の取組みを強化していくうえで、その土台となる健康管理業務の改善を行うには、ECRS(イクルス)の4原則に従い業務改善点を洗い出していくことが1つの方法です。
ECRSの4原則は、どのような業務の改善にも活用できるフレームワークで、特に拠点ごとにバラバラの健康管理業務を行ってきた企業においては、活用する価値のあるものです。
ECRSの4原則においては、Eliminate(取り除く)が最も業務改善による効果が大きく、その後Combine(まとめる)→Rearrange(再整理する)→Simplify(簡素化する)の順に業務改善効果が小さくなっていきます。
以下は、産業看護職の担う健康管理業務において、ECRSの4原則に基づき導出される改善点の一例です。
Eliminate(取り除く):業務をなくす
- 拠点独自の巡視業務への参加を止める
- 事務作業を総務担当に移管する
- 参加する会議を限定する
- 全て自前で作成しているEラーニングの一部を外注化する
など
Combine(まとめる):業務をまとめて実施する
- 拠点横断で使える講話資料を持ち回りで作成する
- 度重なりある情報照会のQ&Aを作成する
- 部門ごとに実施している個別説明を1回にまとめる
- 同じ記録を2か所に実施しているものを1か所にまとめる
など
Rearrange(再整理する):業務の分担・順番・方法・場所等を見直す
- 適正に合わせて産業看護職間の業務分担を見直す
- 滞留を起こしがちな情報回覧の流れを変える
- 面談実施や会議参加を対面からオンラインに切り替える
- データフォルダや原本ファイル保管場所を最適化する
など
Simplify(簡素化する):業務を短縮化・自動化する
- 委員会資料の事前承認手続きを簡素化する
- メール種別に応じたテンプレートを作成する
- 月次集計作業をツールで自動化する
- 個別ファイル添付+メール送信をツールで自動化する
など
健康管理業務の改善を図る必要があるとなると、健康管理システムを導入すれば良いと安直に考えがちですが、ECRSの4原則に基づいて抽出される改善点は、システム導入だけで解決できるものではありません。
上述の例でも分かる通り、産業看護職が担っていた業務を移管することで改善されるもの、拠点間でバラバラに実施していた業務を拠点横断で共通化して実施することで改善されるもの、新たな管理Excelを作成してマクロ処理で効率化を図れるものなど、解決方法は多様に存在します。
(弊社のコンサルティングの中で、普段使いするExcelやPowerPointのツール作成などをご支援しているケースもございます)
そのため、まずは健康管理業務のどのような点を改善したいのか、ECRSの4原則に沿って洗い出しを行うことが、最適な推進基盤の構築に繋がってきます。
3.健康管理業務改善の3ステップ
それでは、具体的にどのように業務改善を進めていけばよいのか、3ステップで解説します。
ただしお示しするのは、弊社がコンサルティングを行う際のアプローチ例ですので、もしそぐわない場合は、自社にあった方法を検討して進めていただければと思います。
Step1. 業務実態整理表の作成
まずは、業務実態整理表の左半分における業務一覧を作成していきます。
産業看護職の方々が関わっている健康管理業務の全体を、大項目→中項目(必要があれば小項目も)とカテゴリー分けし、カテゴリーごとに事前・実施・事後の3つのバリューチェーンに分けます。そして、バリューチェーンごとに産業看護職が担うべき標準業務を紐づけることで業務一覧が完成します。
そして、設問①として、標準業務以外で担当している業務はあるか、標準業務のうち担当していない業務はあるか、についてコメントを付記できる欄を設定します。
また、設問②として、担当業務について、Eliminate(排除する)、Combine(まとめる)、Rearrange(再整理する)、Simplify(簡素化する)を実現できそうなことがあるか、についてコメントを付記できる欄も設定します。
これで業務実態整理表が完成します。
(そのほか、各業務の工数を把握する欄を追加することで、業務改善のインパクトを試算することも可能になります。)
Step2. 業務実態の棚卸し
Step1で作成した業務実態整理表を用いて産業看護職の方々にチェックをしてもらうため、説明会を行います。表の見方、記入の仕方について共有し、すべての産業看護職が同じ基準で棚卸してもらえるよう目線合わせを行います。
そしてこの説明会で何よりも大事なのは、この棚卸しが、産業看護職の方々の評価を行ったり、既存業務を勝手に排除したりすることを目的としていないこと、健康経営の取組み強化に向けての土台作りを行うためのものであること、をしっかりと伝えることです。
各拠点それぞれの事情があって今の業務があるため、それは尊重することが大前提、そのうえで可能な部分から業務改善を図っていくというスタンスを示すことで、全員が同じ方向を向いてこの業務改善に取り組んでいくことができるようになります。
Step3. 業務改善点の整理・対応
Step2で棚卸された結果を集約し、標準業務とは別に担当している業務、標準業務のうち担当していない業務の実態を把握します。
また各産業看護職から挙がったECRSの観点でのコメントを踏まえ、会社全体としてどのような業務改善を図っていくべきか、論点一覧に整理しなおします。
あとは論点ごとに、いつどのように改善していくのかプランを立てて実行していくことで、拠点間でのバラつきが徐々に減っていき、また健康管理業務に係る工数の削減も図られ、健康経営の取組み強化に進んでいける土台が構築されていきます。
4.まとめ
本稿では、健康管理業務の統一化や効率化が図れていないことが理由で、健康経営を思うように進められていない企業、今後の健康経営の取組み強化・推進に不安がある企業にお役立ちいただける、健康管理業務の改善方法についてご説明しました。
いくら良い健康経営の戦略・計画を立て、推進体制をしっかりと構築したとしても、それを回すための推進基盤ができていないと、絵に描いた餅になりかねません。
自社がまさにそのような状態だと感じられた企業においては、早めに業務改善に着手することをお勧めします。