1.4つの不とは
「4つの不」とは、「不信・不要・不適・不急」のことで、商品・サービスを購入するときに壁となる顧客心理と言われています。
営業現場で解消すべきものとして紹介されることが多いのですが、実は健康経営の推進においても役立てられる考え方になります。
営業では顧客に対して商品・サービスの購入を促しますが、健康経営では従業員に対して健康施策への参加を促します。目的は異なりますが、ターゲットの行動を促すという観点において考えることは基本的に同じです。
参考:荒巻基文『コンサルティング・セールスのすべてがわかる』
まず「4つの不」についてそれぞれ簡単に説明します。
不信:「この会社は信用できるのか?」
今まで付き合いのない顧客に営業の電話をかける、オフィスに飛び込み営業を行うなどしても、不信感で門前払いされることが一般的です。この会社はどういう会社なのか、営業担当者は何者なのか、信用がないことには、どのような良い提案があったとしても話を聞いてもらう土俵に立つことすらままなりません。
不要:「自社にとって必要なのか?」
顧客自身が課題と感じていない・解決したいと思っていない、また解決できないものだから仕方ないと思っている場合などがあります。根本の動機づけができていないことには、すべてが他人事になってしまい、営業担当者からの話が一向に刺さりません。
不適:「自社に合っているのか?」
顧客それぞれで、課題やニーズ、スキル、マンパワー、予算など事情がそれぞれ異なっています。このサービスを導入して使いこなせるのか、課題が解決できるのか、他ではなくこのサービスがベストなのか、など自社へのフィット感を基に判断がなされます。不明点や不安に感じていることをヒアリングし、解消を図っていかないことには前向きに話を進めていくことができません。
不急:「いま必要なのか?」
サービス自体を気に入ってくれたものの、すぐに導入するという意思決定をもらえないことも多々あります。なぜいま導入する必要があるのか、明確な理由づけがないことには、決断を後回しにされてしまいがちです。
それでは次に、「4つの不」を健康経営に当てはめてみましょう。オンライン禁煙プログラムへの参加促進を例にとって、具体的にどのような「4つの不」があるのか、またそれをどう乗り越えていけるかを解説します。
2.健康施策の参加促進における4つの不と解消方法
不信
「敷地内禁煙実現を見据え、今年度からオンライン禁煙プログラムの提供を開始したので、タバコをやめたいと考えている方は是非ご参加ください。」という主旨のメールが、突然送られてくることを想像してみましょう。
「なぜ禁煙の取り組み強化が始まったんだ?」「喫煙者だけを悪者扱いするのはひどすぎないか!」「メタボは良いよな、何も言われないし・・・」といった会社に対する不信感が生まれるのは明らかです。
このようなケースには、会社の進める方向性に対する信頼をどう生み出せるかがポイントです。具体的には、健康経営の目的や課題意識、施策全体像を示し、それに対する理解や納得感を得ること、そのうえで禁煙プログラムの位置づけを説明し、参加を呼びかけることが重要です。
やみくもに健康経営に取り組んでいるわけではなく、会社がしっかりと全体設計したうえで取組みを行っているんだということがあるのとないのでは、従業員の受け止め方が大きく異なります。
健康経営においては、「不信」を取り除く作業は、すべての健康施策を推進する上で、大前提として行っておくべき取組みになります。
不要
「不信」の壁を越えたのち、「不要」の壁が立ちはだかります。
「タバコをやめるつもりがないから、この禁煙プログラムは自分に必要ない。」
「タバコを一瞬やめられるかもしれないが、どうせ継続できない。」
といったように、そもそもの動機がないこと、諦めを感じていることによる不要論者が多く存在します。
このようなケースには、現状課題に気付かせる、あるべき姿を認識させる、目的をすり替える、といったアプローチが有効です。
- 健診時に呼気チェックを加え、喫煙による肺年齢を可視化する
- 健康情報提供として、タバコをやめた身体や人生、タバコを吸い続ける身体や人生を対比させて考えさせる
- 社内アンケートを活用し、タバコをやめられた同僚においてどのような変化が生まれたかを共有する
- 健康プチ講座を行い、受動喫煙やサードハンドスモークによる子供の成長に与える影響を伝える
などが挙げられます。
諦めを感じていたような従業員でも、強い動機が生まれれば、不要が必要に変わっていくことでしょう。
不適
「不要」の壁を越えた後に来るのは、「不適」の壁です。
「禁煙したい気持ちはあるが、この禁煙プログラムは自分に合わないかもしれない。」
「この禁煙プログラムを最後まで継続できるか不安、失敗したらどうしよう。」
といった心理状態にあるため、自分へのフィット感を持てることや、不安感の払しょくが求められます。
このようなケースには、施策の詳細理解を促す、選択肢を多様化する、リスク回避策を提示するといったアプローチが有効です。
- 禁煙プログラム詳細やQ&A、体験者談をまとめた資料・動画・社内ページを作成する
- 社内アンケートを踏まえたニーズの多寡を踏まえて、禁煙プログラムの形式を多様化する
– 個人参加形式のプログラムのほか、チーム参加形式のプログラムも用意する
– 個人参加形式において、サポーターの要否や種類を選べるようにする
– チーム参加形式でも、同僚とのチーム組成のほか、家族とのチーム組成も認める
– プログラム中に活用できる禁煙補助薬のバリエーションを増やす - 途中で失敗しても問題ない旨を伝えて参加のハードルを下げる(当然参加意向をもらった後は失敗しないよう全力でサポートする)
などが挙げられます。
不急
「不適」の壁を越えた後、最後に来るのは「不急」の壁です。
「この禁煙プログラムはいつでもやっているから、いま参加しなくて良い。」
と決断を後回しにされないよう、喫煙者の意思決定を促すことが求められます。
このようなケースには、定期的なアレンジを加える、いま参加しないと損をすることを伝える、といったアプローチが有効です。
もし同じ体験ができるレジャー施設や同じ商品が買えるショッピングセンターがあったとして、季節の装飾やイベント、キャンペーンなどを行っている施設と、いつ行っても代わり映えのしない施設とでは、いま行きたいと思う気持ちが大きく異なるのではないでしょうか。
健康施策においても同様で、盛り上がっている健康施策であると如何に思わせるかという視点で細やかな改良を図ることが重要です。
- 禁煙プログラム内容や参加特典を開催時期によって変更する
- 期間限定・数量限定のキャンペーンを開催する(参加者・紹介者ともに)
- 禁煙後の死亡リスクが元に戻る期間を認識させ、自分の年齢との照らし合わせやライフプランを考える機会をつくる
などが挙げられます。
3.まとめ
本稿では禁煙プログラムを例に、健康施策への参加促進において解消すべき「4つの不」について解説しましたが、他の健康施策にも当てはめて考えることができるフレームワークになります。
各健康施策への参加促進において、具体的にどのような不が存在するか、その不を解消するためにどのような方策が必要か、を考え、実行していっていただければと思います。
「4つの不」の解消アプローチ
- 「不信」: 健康経営の目的や課題意識、施策全体像を示し、それに対する理解や納得感を得る
- 「不要」:現状課題に気付かせる、あるべき姿を認識させる、目的をすり替える
- 「不適」:施策の詳細理解を促す、選択肢を多様化する、リスク回避策を提示する
- 「不急」:定期的なアレンジを加える、いま参加しないと損をすることを伝える
※参考記事:6つの禁煙推進アプローチとフェーズに応じたステップアップ方法
4.WILLEEのサポート内容
本稿の冒頭、営業活動と健康施策の参加促進は、ターゲットの行動を促すという観点において考えることは基本的に同じとお伝えしましたが、行動を促す方法が個別か大勢かという点で異なっています。
営業現場では営業マンが顧客一人ひとりからヒアリングを行い、それに対して丁寧に対話することによって「4つの不」を解消していくことができます。しかし、健康施策への参加を促すにおいては、従業員一人ひとりに個別対話できる営業マンはいません。
そのため、健康施策を発信する前に「4つの不」を解消できるような健康施策の設計にしておくこと、「4つの不」を解消できるような告知内容・資料を用意しておくことが極めて重要になります。
弊社では、お客様へのコンサルティングサポートの中で、施策ごとに以下のようなサポートを行っています。
- 健康施策PDCA推進ツールを基に、「4つの不」を踏まえた施策詳細化を討議
- 健康施策のプロモーション要件整理ツールを基に告知資料の設計を行い、それを踏まえてクリエイティブで分かりやすい告知資料を作成・納品
これにより、健康施策一つひとつの社内浸透強化をご支援しています。
「多様な健康施策を打ってはいるものの、やりっ放しになってしまっている」「健康施策への参加率が伸び悩んでいる」「従業員の参加促進を図る知見やマンパワーがない」といったお客様は、是非ご相談ください。