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2023/04/27

6つの禁煙推進アプローチとフェーズに応じたステップアップ方法
ホワイト500認定法人125社の取組み徹底分析

2020年4月の健康増進法改正に伴い受動喫煙防止の取組み強化が求められるようになったことを踏まえ、健康経営に取組む企業においては受動喫煙防止及び禁煙の推進が今まで以上に重要な課題となっています。
しかしながら、企業側で禁煙施策を用意して社員に呼びかけたとしても、なかなか施策への参加者が集まらないといった課題を感じている健康経営推進担当者も多いかと思います。

本稿ではそのような課題を抱えているご担当者様向けに、令和4年度ホワイト500認定法人125社の取組みから見えた、禁煙をより前進させていくための6つのアプローチと、禁煙推進フェーズに応じたステップアップ方法について解説します。ぜひ最後までお読みいただけると幸いです。

1.ホワイト500認定法人における禁煙の取組み実態

健康経営度調査のQ72では、効果検証課題テーマを選択し、取組みの効果検証内容が問われています。効果検証課題テーマは全10個の選択肢があり、そのうち最大で2テーマを選択します。

令和4年度(2022年度)の健康経営度調査でホワイト500認定法人となった500社において、課題10「従業員の喫煙率の低下」を選択したのは125社(選択割合は25.0%)であり、10テーマ中4番目となっています。

また、令和元年度(2019年度)~令和3年度(2021年度)の健康経営度調査に関する統計データから、各年度のホワイト500認定法人の生活習慣・健康状態の平均数値※が把握できますが、喫煙率は着実に改善しています。
※調査票には1年度前の数値を記載するため、平成30年度(2018年度)~令和2年度(2020年度)の平均値であることに注意。

以上のことから、健康経営のトップランナーたるホワイト500において、禁煙は非常に関心の高いテーマであり、かつ着実に成果を出している取組みであると言えます。

そのため、ホワイト500に追随する健康経営優良法人、未認定法人においても、禁煙は今後より一層強力に進めていくべきテーマであることは間違いありません。

2.6つの禁煙推進アプローチ

ここからは、前述の令和4年度ホワイト500認定法人125社における禁煙推進の取組み事例を踏まえ、弊社とエーテンラボ㈱※が共同で整理した、禁煙推進における6つのアプローチ方法をご紹介します。

なお、125社の取組み事例は、Action!健康経営で開示されている健康経営度調査回答法人の評価結果データより把握しています。

※エーテンラボ㈱は、ピアサポートに基づく禁煙推進サービス『みんチャレ禁煙』を提供しています。日立健康保険組合で過去最多515名の禁煙参加者を集めた、禁煙業界でいま注目を集めているサービスです。禁煙に取組む5人が1チームとなり、禁煙の辛さや苦しさを共有し合いながら互いの頑張りを励みに禁煙達成を目指す、他社と差別化されたプログラムを提供しています。
エーテンラボ株式会社 みんチャレ禁煙サービス詳細を見る

①会社の覚悟を決め、トップから発信する

会社が一丸となってその達成に向けた取組みを進めるために、経営トップが禁煙に関する明確な方針や目標を示していくアプローチ方法です。

社内外に対して会社としての禁煙宣言を行い、具体的なKPI(喫煙率)を目標値として掲げ、具体的な取組み計画やロードマップを示すことで、会社が本気で禁煙に取組むことが伝わり、禁煙の風土づくりや禁煙施策への参加率向上を図っていきます。

<具体例>
1.経営トップによる禁煙宣言
2.現場レベルでの禁煙宣言内容・目標値の落とし込み
・責任者からの発信
・現場ごとの喫煙率目標値設定
3.社内外への目標値・計画・制度の公表
・ 目標値の公表(○○年までに喫煙率○○%)
・ 禁煙に向けた取組み計画・ロードマップの公表
・一歩踏み込んだ目標値の公表(喫煙率0%など)
・非喫煙者のみ採用

②多様な手段・機会で繰り返し情報を届ける

禁煙に向けた情報を繰り返し伝達することで、喫煙者の意識を変え、行動に移すためのアプローチ方法です。

興味や関心の無かった事でも、多様な角度から情報が伝えられたり、頻繁に目にしたり聞いたり、個別に情報が届いたりしていくうちに、次第に興味がわくようになります。

ただし、過度に情報提供を行い過ぎると嫌悪感を示される懸念もあるため、情報提供の頻度や方法には注意が必要です。

<具体例>
1.イベントに合わせた情報提供
・世界禁煙デー、毎月22日(スワンデー)
2.多様な媒体を利用した情報提供
・広報誌、イントラサイト、健保だより、衛生委員会
3.専門職(産業医・保健師)からの個別指導
4.多様な情報の提供
・禁煙コラム、eラーニング、アンケート、禁煙セミナー、動画研修

③伝え方を工夫して、喫煙者を振り向かせる

喫煙者の注意を引くような内容・仕掛け(デザインやメッセージ、施策の内容等)を用いるアプローチ方法です。

人間の脳は9割以上を無意識で過ごすといわれており、日常生活で目や耳から入る情報のほとんどには意識が向けられず、自身の関心を持つものだけに注意が向けられています。
つまり、多様な施策(禁煙プログラムやキャンペーン企画等)を用意しても、情報が喫煙者に認知されなければ意味がありません。

また、人によって関心事項は異なるため、複数の禁煙の選択肢を用意・提示していくことも重要です。

<具体例>
1.情報を目立たせる(デザインや内容に変化をつける)
・ポスター掲示、禁煙キャラクターの作成
2.情報をポジティブに伝える
・禁煙成功者の体験談の共有、禁煙のメリット、禁煙達成後の良いイメージ共有
3.禁煙に向けて複数の選択肢を用意する
・禁煙プログラム(コースの細分化)、禁煙キャンペーン、禁煙イベント

④吸えない環境を作り・維持する

働く環境において、物理的・心理的に喫煙を制限し、それを徹底するアプローチ方法です。

強制力のある取組みとなるため、一気に制限を厳しくすると、喫煙率の高い職場から反発が出る恐れがあります。
そのため、事前に会社としての方針・計画を社員へ周知したうえで、段階的に取組みを強化していく必要があります。

<具体例>
1.特定の場所・時間、日で禁煙を推奨する
・禁煙デー(毎月22日)、禁煙タイム、社用車禁煙
2.全面的な禁煙
・全喫煙所撤去、敷地内全面禁煙、就業時間内禁煙
3.監視・心理的なハードル
・禁煙パトロール、就業規則への記載

⑤家族や仲間からの働きかけで心を動かす(ソーシャルサポート)

周囲の方(家族・上司・仲間・専門職等)からの働きかけで喫煙者の心を動かし、禁煙への挑戦へ誘導したり、禁煙の途中離脱を防いだりするアプローチ方法です。

禁煙の動機は大きく5点あると言われています。
将来の健康不安や近親者が病気になったことによって、結婚や出産、昇進などのライフステージが変化したことによって、タバコの値上がりや給料の低下に伴う家計の変化によって、世間的な禁煙風潮や身近な人が禁煙したことによって、の4点に加え、もう1点が家族や上司、仲間など信頼できる人からのススメによってになります。

<具体例>
1.専門家や担当者の熱意を伝える

・衛生委員会での禁煙講話、意思決定者へ禁煙の重要性を伝える
2.身近な人のサポート
・禁煙サポーター制度(上司・同僚・家族)
・禁煙サポート窓口の設置
3.個別支援の強化
・社長からの手紙、1on1面談、禁煙成功者座談会実施

⑥インセンティブやペナルティを設けて、背中を押す

禁煙に取組む際のハードルを下げ、第一歩を踏み出しやすくするアプローチ方法です。

「禁煙外来費用を全額補助」、「禁煙に成功したら○○プレゼント」等の喫煙者に対するインセンティブのほか、その反対のペナルティや、非喫煙者に対してインセンティブを設ける手段もあります。

行動しないと損と思えるインセンティブやペナルティを用意することは、禁煙に踏み切れず迷っている対象者の背中を押すのに効果的です。

<具体例>
1.金銭的インセンティブ
・禁煙外来費用補助、禁煙補助剤購入費補助
2.非金銭的インセンティブ
・禁煙成功者への社長からの表彰
3.非喫煙者へのインセンティブ
・吸わない手当(月額手当支給)
4.ペナルティ
・役員昇格条件への考慮

補足:ナッジ設計フレームワーク「MINDSPACE」との関係性

『MINDSPACE』は、ナッジ(人々の行動を改善するために、軽微な仕掛けや誘導を行う手法)を設計するためのフレームワークです。

MINDSPACEは以下9つの要素から成り立っています。

前述の6つの禁煙推進アプローチは、この『MINDSPACE』と以下の通り関連付いていると考えられ、喫煙者の行動変容を促すナッジの要素を含んだアプローチであると整理できます。

3.禁煙推進フェーズに応じたステップアップ方法

ここからは、禁煙推進の各フェーズ(「初期」「中期」「後期」の3分類)に位置する企業がどのような取組みを行っているかの情報を基に、前述の6つのアプローチ方法それぞれをどのようにステップアップさせていくと良いか、解説します。

禁煙推進の3フェーズ

健康経営度調査Q72に禁煙の取組みを記載したホワイト500認定法人125社を、[1]喫煙者の実態把握状況、[2]施策の種類や内容、[3]効果検証状況、[4]喫煙率の数値、の4側面から初期、中期、後期の3フェーズに分類しました。

分類の結果、各フェーズの該当企業数やその取組み概要は以下の通り整理されました。

[初期フェーズ]
該当企業は125社中31社(24.8%)、平均喫煙率は25.1%です。
禁煙推進の取組みをこれから本格的に開始する、もしくは開始してから数年の企業がこちらのフェーズに該当します。

禁煙施策の種類はあまり多くなく、取組みやすい施策(禁煙プログラムの導入)から取り入れています。深掘りした効果検証はできておらず、会社全体の喫煙率を経年で評価しているケースが大半です。

[中期フェーズ]
最も該当企業が多く、125社中69社(55.2%)、平均喫煙率は21.0%です。
煙率の目標を定め、中長期的な目線で禁煙に取り組んでいる企業が多く存在します。

喫煙者に対するアンケート調査等を通じて禁煙意欲を確認する、禁煙プログラム等の施策参加者数と喫煙率低下の関係性を検証するなど、初期フェーズの企業より先に進んだ取組みが増えてきます。

[後期フェーズ]
該当企業は125社中25社(20.0%)、平均喫煙率は11.9%です。
喫煙率の達成目標を高いレベルに設定しており、現時点の喫煙率も1桁%の企業が多く該当します。

喫煙者が限られてきているため、多くの喫煙者達に向けたマスアプローチではなく、個別介入や独自色の強い施策を展開する傾向があります。

6つの禁煙推進アプローチのステップアップ方法

禁煙推進企業のフェーズ分類が理解できたところで、前述の6つの禁煙推進アプローチに関して、フェーズが初期→中期→後期と変わっていくにつれてどのようなステップアップが図られているかを解説します。

なお、お示しするステップアップ方法は、ホワイト500認定法人125社の取組み分析を基に一般化したものであることをご承知いただければと思います。

①会社の覚悟を決め、トップから発信する

[初期]:本格的に禁煙を進めていくことの理解を浸透させるため、喫煙率低下の目標値
(期日や具体的な数値)を設定し、トップより禁煙宣言を行います。

[中期]:全社レベルの禁煙宣言や目標値、推進計画を現場レベルに落とし込み(現場ごと禁煙宣言、現場ごとの喫煙率低下目標等)、さらに禁煙の取り組みを加速化させます。

[後期]:より高い目標(喫煙率0%)や強気の制度(非喫煙者のみ採用)を掲げ、禁煙に対する会社の強い意志を社内外へ発信します。

②多様な手段・機会で繰り返し情報を届ける

[初期]:禁煙に関する多くの情報を発信していくことに主眼を置き、イベント時(世界禁煙デーや禁煙デー)に合わせたコラム配信や研修動画配信等を行います。

[中期]:情報を社員に確実に届けることを重視し、必須参加の研修や必須受講のe-ラーニングやアンケート等を通じて禁煙に関する情報を伝達します。

[後期]:情報の質を重視し、専門職から喫煙者個々人の健康状態に合わせた保健指導などを通じて情報を届けていきます。

③伝え方を工夫して、喫煙者を振り向かせる

[初期]:ポスターやリーフレットのデザインを工夫したり、禁煙キャラクターを用いたりして、情報を目立たせることで喫煙者の目に留まる工夫を行います。

[中期]:禁煙に対してより強い関心を持ってもらうために、身近な存在である社内の禁煙成功者の声を基にポジティブな情報(禁煙成功体験・禁煙のメリット等)を提供します。

[後期]:これなら自分でも禁煙できるかもと思わせるような禁煙に向けた多様な選択肢(禁煙キャンペーン・禁煙アプリ・禁煙プログラムコースの細分化)を用意し、禁煙への挑戦ハードルを最小化していきます。

④吸えない環境を作り・維持する

[初期]:禁煙タイムや禁煙デーなど部分的な制限を設けることから始めます。

[中期]:敷地内禁煙や就業時間内禁煙等のルール設定を通じて、喫煙を全面的に制限します。

[後期]:喫煙制限のルールを守れていない社員に対して、禁煙パトロールや就業規則への反映等によって取り締まり、喫煙制限ルールが遵守されるよう働きかけを行っていきます。

⑤家族や仲間からの働きかけで心を動かす(ソーシャルサポート)

[初期]:禁煙推進に関する会社の温度感や本気度が理解されていないため、医療職や担当者からの熱意を衛生委員会や意思決定者の方々に伝達し、そこから社員へ働きかけてもらいます。

[中期]:家族や上司、同僚など周りの方々のサポートを受けながら禁煙を進めるイベントやプログラム等を増やしていきます。

[後期]:社長自らが喫煙者や家族に対して手紙を配布、個別面談を実施する等、喫煙者個々人に働きかけていくことで、目標達成に向けた追い込みをかけていきます。

⑥インセンティブやペナルティを設けて、背中を押す

[初期]:喫煙者へのインセンティブ(禁煙外来費用補助、禁煙達成者への手当等)を設定することから始めます。

[中期]:喫煙者へのインセンティブの内容や種類の見直しとともに非喫煙者へのインセンティブ(吸わない手当や禁煙達成者が出た部署へのインセンティブ等)を提供し、非喫煙者も会社の禁煙推進に巻き込んでいく仕組みを構築していきます。

[後期]:喫煙有無を役員昇格の考慮要件に組み込むような、ペナルティ要素を取り入れた取組みを推進していきます。

4.まとめ

本稿でお伝えしたことをまとめると以下の通りです。

  • ホワイト500の取組みを踏まえると、禁煙推進の取組みは6つのアプローチに分類して整理することができる
    →自社の禁煙推進の取組みで強化できる点がないか、検討に活かして欲しい
  • また、フェーズが初期→中期→後期と進むにつれて、6つのアプローチに関する取組み内容や深さを変化させている
    →自社の禁煙推進の取組みをどうステップアップできるか、検討に活かして欲しい

これからの取組み強化に向けて、是非お役立ちいただけると幸いです。

参考コラム
・禁煙施策をどのタイミングに実施すると良いか
『健康〇〇の日』45選 啓発期間を掲げて健康施策のWHYを強化する

・施策参加率を高めるにはどうプロモーションすると良いか
→健康施策への参加率を高める9つのプロモーション方法

株式会社ウィリーでは、何か特定のサービスに誘導するということは一切なく、完全中立的な立場で、成果導出に向けた健康経営の戦略づくりから実行・効果検証までの一連をお手伝いさせていただいております。
これから健康経営に取組む場合、健康経営の見直しを図りたいと考えている場合、いずれであっても、顧客に寄り添いながら伴走型でサポートを提供しております。

弊社では、本稿で解説した禁煙の進め方をはじめ、健康経営の推進に関する広く深い知見を有しております。健康経営の推進に関するお悩みがある方は、是非お気軽にご連絡いただければ幸いです。