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2023/11/22

従業員の主体的な健康づくりを促すPULL型健康施策のススメと施策設計のポイント

従業員の健康づくりのための施策に取り組むものの、施策への参加者が一部の従業員に限られてしまっている。本来は健康意識の低い従業員も含めて多くの従業員に施策に参加してもらい、ヘルスリテラシーの向上や健康行動に取組んでもらいたいのに、何の施策にも参加してくれない。元々健康に関心ある従業員がより健康になるための施策になってしまっているのではないか。

本稿では、そのようなお悩み解決の一助として、従業員の主体的な健康づくりを促す『PULL型健康施策』について解説します。
最後までお読みいただき、今後のお取組み検討に是非お役立ていただけましたら幸いです。

1.自分自身の健康に関心がない従業員は意外と少ない

健康セミナー、ウォーキングイベント、ヘルシーメニューなど健康施策を色々と打っても何一つ参加してくれない従業員が多いことに対して、「うちの社内には健康無関心層が多いから」といった言葉で片づけたくなる気持ちはよく理解できます。健康施策の1つひとつに企画・準備に相当の時間がかかっているため、それに対する従業員の反応が少ないと、気持ちが下がってしまうこともあろうかと思います。

しかしこの解釈は、果たして正しいのでしょうか。

ここ数年、コロナをきっかけに、世間一般では感染症対策や体調管理に気を付けるようになりました。また、オンライン会議が一気に普及しデスクワークが増えたことで、運動不足や体重増加、目肩腰の疲労などがコロナ以前よりも大きな課題になってきているかと思います。

また、弊社お客様の健康アンケートで、「ご自身の健康について、現在気になっていることや治したいと思っていることがありますか。(選択肢を複数提示して複数回答ありの選択式で回答を求める)」といった問いを立てると、健康についての関心事項が何らか1つ以上ある従業員は85%~100%のレンジで存在しています。

このような実態を踏まえると、会社の提供する健康施策に何ひとつ参加してくれないことを「うちの社内には健康無関心層が多いから」で片づけるのは誤っている感じがしないでしょうか。

運動、食事、・・・といったテーマに関心がない、セミナー、イベント、アプリ・・・といった形式が自分に合わない、から参加してくれていないだけで、従業員の抱える何らかの「関心」を「行動」に変えるきっかけを上手く与えられていないのではないか、と捉えなおせないでしょうか。

2.個人の関心と嗜好に寄り添ったPULL型健康施策のススメ

健康経営施策の基本は、会社側が特定の健康課題解決のために取組む内容を考えて従業員に展開する『PUSH型健康施策』です。
身体活動を増やすためにウォーキングアプリを導入する、健康的な食生活を促すためにヘルシーメニューを提供する、睡眠のリテラシーを高めるためにセミナーを開催する、喫煙者を減らすために禁煙プログラムを提供する、といったものです。

これは、会社の健康経営戦略に基づく方向に着実に歩を進めることができますが、施策のテーマ・形式が自身の関心・嗜好とマッチする従業員にウケが良いものの、それがマッチしない従業員においては組織の力を借りて参加を促していく必要があります。

一方で、従業員自身の健康に関する関心事項を引き出し、具体的な目標や取組み内容を考えさせ実践を支援する『PULL型健康施策』というものもあります。
「●●の健康宣言」「健康●●チャレンジ」「健康●●アクション」のような施策名で先行企業において推進されており、一定の取組み期間を設けて全社一斉に各々の健康づくりに取組むイベントもしくはプログラムのようなものです。(本稿4章で先行事例をご紹介)

こちらは、健康について何かしらの関心事項を有する従業員の多くを巻き込み、自発的にリテラシー向上や健康行動を促進することができるメリットがあります。健康経営戦略に基づく方向に歩を進める意味ではPUSH型健康施策よりも劣る部分がありますが、多くの従業員を各々の方向に一歩進める意味では非常に優れています。

今までPUSH型健康施策だけ実施してきて、参加者の巻き込みで壁に当たっている会社においては、是非PULL型健康施策も年間計画の中に織り交ぜていくことをおススメします。

また、従業員の望ましい健康行動全体像をキャッチフレーズ化している会社においては、そのキャッチフレーズと紐づけてPULL型健康施策を進めていくと良いと思います(望ましい健康行動全体像から取り組むテーマを決めてもらうなど)。

※キャッチフレーズ化のメリットや事例について知りたい方は以下をご参照ください。
関連記事:従業員の健康行動を促進するキャッチフレーズ

3.PULL型健康施策を効果的に推進するためのポイント

本章では、今までPULL型健康施策に取組んだことがないご担当者様向けに、PULL型健康施策を効果的に推進するためのポイントについて解説します。①計画、②実践、③振返り・シェアのフェーズごとに解説していきます。

計画

まず、従業員個人に、自身の健康について気になっていることや治したいことを振返り、その改善に向けた計画づくりを促すことが全ての始まりになります。

計画を立てるフォーマットを用意し、自身がどうなりたいか(改善目標)、そのために何にどう取り組むか(行動内容・手段)をより具体的に考えてもらうことが重要です。

立てた計画を公表するか否かについては、以下のような4パターンがあります。

  • 自身のみに留めておく方法
  • 上長のみに共有する方法
  • 職場・事業所内で公表する方法(匿名or記名)
  • 全社で公表する方法(匿名or記名)

取組みを活性化する上では、職場・事業所内や全社で公表する方が望ましいですが、プライバシーの問題を感じる従業員がどれほどいるか、も踏まえて検討することが必要です。

なお、職場内で公表する形で取組みを進める場合は、似たようなテーマに取組む従業員を幾つかにグループ分けして、各グループ内で切磋琢磨し合う方法などもおススメです。

実践

計画を立てるだけ立てて、実践しなかったでは全く意味がありません。実践を促進するために、以下のような観点で実践期間中のサポートを検討していくことが望ましいです。

  • 【施策実施】 実践期間中に参加・利用できる健康施策を提供する
  • 【金銭提供】 計画したことを実践するための資金を提供する
  • 【情報提供】 役員や同僚が取り組んでいることについて紹介する
  • 【見える化】 自身の目標や日々の実践状況を可視化し、振返れるようにする
  • 【インセンティブ付与】 実践継続に対して商品等に交換可能なポイント等を付与する

また、実践期間をどれほどに設定するかは重要な検討事項です。

1~3か月程度の期間限定で取組む方法であると、実践意識を継続しやすいものの、実践期間以外において元の生活習慣等に戻ってしまう可能性が高くなります。一方、年間を通じて取組む方法であると、生活習慣等の改善がより図られやすいものの、途中で実践意識が薄れてしまう可能性が高くなります。

他施策との優先度合いやスケジュールの関係性などを考慮しながら考えていくことが重要です。

振返り・シェア

実践期間終了後、データに基づく検証を行います。健診・問診結果等の経年変化を評価するほか、事後評価アンケートを取って振返りを行うことも重要です。

事後評価アンケートを行うことができるのであれば、自身で立てた計画を実践できたかどうか、実践効果があったかどうかを自己評価してもらうことがおススメです。

実践できた群と実践できなかった群に分けて、健診・問診結果等の変化に差異があることを検証できれば、次年度以降の施策発信の際に活用できるデータになります。

また、健康づくりの取組みの輪を拡げていくために、優れた取組みや工夫を凝らした取組みを行った従業員や、改善効果が出た従業員などを対象に、健康づくりインタビューを実施し、事業所内や全社に共有することも重要です。

上記のような効果検証や好事例共有を着実に推進することは、次年度施策のレベルアップや、社内の健康風土醸成に繋がります。しかしそれを怠ると、次年度はまた0から施策が始まることになりますし、また今年度もこの施策をやるのか・・・とやらされ感が高まってしまします。

このような大きな違いが2年目以降生まれるため、①計画、②実践フェーズにおける企画・準備以上に、③振返り・シェアのフェーズにしっかりと時間をかけていくことが重要になります。

4.ホワイト500におけるPULL型健康施策の事例5選

本章では、PULL型健康施策の先行事例について、5つご紹介します。

各社において、①計画、②実践、③振返り・シェアをどのように行っているのか、参考とされてください。

 

豊田通商「私の健康宣言」

①計画

  • トヨタグループで推進する8つの健康習慣(適正体重、運動、飲酒、禁煙、朝食摂取、間食、睡眠、ストレス)の中から課題を1つ選んで『私の健康宣言』を行い、改善活動を推進。

②実践

  • 健康チャレンジ8に対する理解浸透のため、名古屋本社及び東京本社の社員食堂内で、2022年9月~11月にかけて、健康チャレンジ8の項目に関連するメニューを日替で提供するイベントを開催。

③振返り・シェア

  • 1日あたりの健康メニューの平均喫食者数は、イベント期間中は119人が利用し、通常の101人と比較し約18%増加。
  • 社員の9割が健康チャレンジ8の活動を認知し、6割弱がこれを意識した生活習慣への行動を実践。

豊田通商HP

キヤノンマーケティングジャパン「ヘルシーアクション」

①計画

  • 2014年から個人や職場で健康行動目標を決めて取り組む「ヘルシーアクション」を展開。

②実践

  • 2016年から健康保険組合と共同で健康増進アプリを導入。
  • 2020年からカードを配布し取り組みの見える化・推進強化とコミュニケーション活性化を促進。
  • 2022年からは役員のヘルシーアクションを社内公開するとともに、2023年からはキヤノンMJグループ共通の健康行動目標「ヘルシーアクション7」を周知し、会社全体で生活習慣改善に取り組む風土が定着。

③振返り・シェア

  • アプリ登録率は、ここ5年間で80%以上を維持。利用やイベント参加に応じたインセンティブを設け、ヘルスリテラシー向上と生活習慣改善の後押しを推進。
  • 様々な活動の結果、生活習慣改善に取り組む従業員の割合は10年間で2倍以上に増加。

キヤノンマーケティングジャパンHP

堀場製作所「ヘルスアップチャレンジ」 

①計画

  • 「なりたい私」を設定し、実現するためのチャレンジ目標を2つ設定。運動、体力増強、減量、生活習慣の改善、食事改善やストレス軽減など、個々人が設定した「なりたい姿」をめざしてチャレンジ。

②実践

  • 日々の結果をポイント制として獲得ポイントを競うなど、楽しく活動ができるように工夫。
  • 参加者全員が本活動を象徴するロゴマークを名札に付けて取り組み、従業員同士のコミュニケーションを促進。
  • 経営トップが自身の健康づくりで日々取り組んでいることや、心身の健康づくりのコツ、従業員への激励メッセージなどを社内Portalサイトに掲載。
  • 日々の活動が停滞気味になっても、あきらめることなく3か月間継続して活動もらうために、グループ各社の労働組合や親睦団体による盛り上げ企画も推進。

③振返り・シェア

  • 2022年3月時点で12年目となり、1,000人以上が参加する活動に進化。
  • 際立った従業員の活動を奨励する役員賞も設定。

堀場製作所HP

サトーホールディングス「わたしの健康目標」

①計画

  • その1年に取り組む「わたしの健康目標」を年度初めに会社へ提出。
  • 具体性・実現性を重視して事務局が精査し、あいまいな目標は再提出を要求。

②実践

  • 期初の目標提出を条件に、毎月2000円の「健康アクション手当」を支給。
  • 各グループ会社、各拠点、各部門の健康経営責任者と活動リーダーが中心となり、健康管理・健康増進のアクションを自分たちで企画、実施。

③振返り・シェア

  • 社員が、自分で選んだ個々の健康課題改善に約半年間かけて取り組み、データに基づいて改善がみられた社員をヘルシープラクティス賞として会社が表彰することで、社員の健康度改善に対する動機付けを促進。

サトーホールディングスHP

サッポロホールディングス「生活習慣改善チャレンジキャンペーン」

①計画

  • 全グループ従業員を対象とした「全社員健幸宣言」で自らの健康目標を毎年年初に設定。
  • 「生活習慣改善チャレンジキャンペーン」では、各コースのこころと体の健康メリット資料を配信し、自分が習慣化したいコースを計8コース※から1人1コース選択。
    ※[運動]ウォーキング、ラジオ体操、腰痛・肩こり解消の3コース、[食事]必ず朝食コース、たっぷり野菜コース、毎日レモン摂取コースの3コース、[その他]禁煙コース、ノンアル習慣コースの2コース。

②実践

  • 各組織のコミュニケーション活性化のためにチーム制を採用してキャンペーンを推進。

③振返り・シェア

  • 2022年はサッポログループの役員・従業員合わせて約3,730名以上が参加。
  • 事後アンケートでは回答者の8割が健康意識が高まった、やや高まったと回答、また8割が毎日行動達成、週3-5日行動達成。

サッポロホールディングスHP

 

5.まとめ

本稿でお伝えしたことをまとめると以下の通りです。

  • 自分自身の健康に何かしら関心を持っている従業員は多く(弊社サポート事例では85%~100%)、全くの無関心者は実は少ない。
  • 一般的なPUSH型健康施策(会社側が特定の健康課題解決のために取組む内容を考えて従業員に展開する)だけで壁に当たっている会社には、PULL型健康施策(従業員自身の健康に関する関心事項を引き出し、具体的な目標や取組み内容を考えさせ実践を支援する)もおススメ。
  • PULL型健康施策の推進に当たり、「①計画」においては具体的な改善目標や行動計画を考えてもらうこと、「②実践」においては施策実施・金銭提供・情報提供・見える化・インセンティブ付与等の方法でサポートしていくこと、「③振返り・シェア」においてはデータで効果を可視化しつつ好事例の全社展開を通じて健康づくりの輪を拡げていくこと、が重要。

今後のお取組み検討に是非お役立ていただけましたら幸いです。

株式会社ウィリーでは、何か特定のサービスに誘導するということは一切なく、完全中立的な立場で、成果導出に向けた健康経営の戦略づくりから実行・効果検証までの一連をお手伝いさせていただいております。これから健康経営に取組む場合、健康経営の見直しを図りたいと考えている場合、いずれであっても、顧客に寄り添いながら伴走型でサポートを提供しております。是非お気軽にお問合せください。

また本稿でご紹介したPULL型健康施策についても、設計から検証までを一緒に推進させていただいておりますので、是非お気軽にご相談ください。