本稿では、健康経営度調査への向き合い方を7つのステップに分けて解説します。このステップを踏まえることで、健康経営の太い幹の再構築や、検証を起点としたCAPD(Check→Action→Plan→Do)を回していくことができるようになります。そして調査回答後には、より実のある健康経営へと繋げていくことができます。
10月の調査票提出までの期間を、「制度・施策実行」で求められる細かな選択肢への対応に時間を費やすのか、それとも本質的な健康経営に繋がるCAPDに時間を費やすのか、どちらが有意義でしょうか。そのような視点でお読みいただけると良いかと思います。
なお、本稿で示すステップは、健康経営にある程度取り組んでいる企業を想定したものになりますが、健康経営にこれから取り組む企業においても一旦同じステップで調査票に向き合ってみることをおススメします。
参考:健康経営度調査の申請から認定までの流れはこちら
1.目的・戦略の再整理
目指す姿の再整理
まずは、健康経営の取り組みを通じて、従業員がどうなって欲しいのか、その結果として会社がどうなって欲しいのか、を再整理しましょう。人材戦略と関連付けながら整理できると良いかと思います。
調査票Q17SQ4※で問われている、健康経営で解決したい経営上の課題の整理に該当しますが、「健康経営で経営上の課題を解決する」と言われてもピンと来ないのではないでしょうか。そのため何を目指して健康経営に取り組んでいるのか、と言い換えることで分かりやすくなります。
※令和6年度調査における設問番号であり、以降の年度では変更の可能性があります。本稿で出てくる以降の設問番号についても同様。
[調査票Q17SQ4:健康経営の目指す姿]
また目指す姿の再整理ができたら、その目指す状態にどれほど近づいているかをモニタリングするためのKPIと、現状値・目標値を設定しましょう。
目標値については、健康経営に取り組む企業の統計数値や、ベンチマーク企業の数値を基に設定する方法もあれば、相関する指標の目標値を基に設定する方法などもあります。
健康経営戦略マップの再整理
目指す姿が整理できたら、その実現に向けた健康経営戦略マップが適切に作成できているか、改めて見直しましょう。戦略マップが不完全であると、適切な効果検証ができず、PDCA関連設問への筋の通った回答や社外への情報開示ができません。そのため健康経営度調査でも評価が下がる要因になります。
調査票Q17SQ2では戦略マップを作成・開示しているかどうかが問われていますが、兎にも角にも戦略マップの中身が重要です。
[調査票Q17SQ2:健康経営戦略の立案状況]
指標と指標の繋がりに論理飛躍がないか、指標改善に繋がる道筋が適切に立てられているか、改めて見直し、この調査回答のタイミングで修正することも全く問題ありません。
戦略マップの作り方や、よくある失敗例と解決策については以下の記事も参考にされてください。
関連記事:健康経営戦略マップの作り方
関連記事:健康経営戦略マップの作成によくある失敗例と解決策7選
2.実績の振り返り
アウトカムKPI実績値の取り纏め
戦略マップが再整理できたら、戦略マップに記載したアウトカムKPI(従業員の日常的な意識・行動を表わす指標、従業員の健康状態・生産性等を表わす最終的な目標指標)について実績を取り纏めましょう。
変化を捉える上でも、可能であれば直近4年度分の数値が整理できるKPI一覧を作成することが望ましいです。
また戦略マップに記載はしていないものの、調査票で求められる指標についてもこのタイミングで併せて一覧表で整理しましょう。
Q66/67:健康診断関連KPI、Q68:ストレスチェック関連KPI、Q69/70:労働時間・有給取得関連KPI、Q71:休職・復職・退職関連KPI、Q72:生産性・組織の活性度関連KPIなどが該当します。
[調査票Q66:健診関連KPI]
なお、Q66~Q68の集計は非常にミスが起こりやすいポイントです。Q68のストレスチェック関連設問は逆数を取ったりする関連でかなりの確率で間違いが発生します。ストレスチェック業者が出した数値が誤っていたケースも、弊社のコンサル現場で何度か遭遇しています。
そのため、弊社のメルマガ登録していただいている方には集計ツールを別途ご提供したいと思いますので、是非ご活用ください。(※サービス事業者や個人アドレス登録者は除きます。)
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アウトプットKPI実績値の取り纏め
続いて、戦略マップに記載したアウトプットKPI(健康投資施策の取組状況に関する指標)について実績を取り纏めましょう。
また戦略マップに記載はしていないものの調査票で求められる指標についてもこのタイミングで併せて整理しましょう。
Q36、Q38SQ1、Q39、Q41SQ2、Q45SQ1、Q46、Q47SQ2、Q48SQ1、Q51SQ1、Q52SQ1、Q53SQ1、Q54SQ1、Q56などで求められる施策参加量関連KPIが該当します。
[調査票Q48SQ1など:重点施策に関する従業員参加状況]
3.検証・改善
効果検証
整理したKPI一覧表を基に、どの施策がどの指標に影響を与えたか、どの指標変化が別のどの指標に影響を与えたかなど考察し、施策の実施効果や、戦略マップの進捗検証等を行いましょう。
また、各種健康関連ローデータを用いて、定量的な分析・考察を行いましょう。経年分析のほか、相関分析、KPI間影響分析、属性間比較分析など、多様な分析を通じて、効果が出た点、今後の改善点や課題を抽出しましょう。
調査票では、Q73:健康関連KPIの効果検証、Q74:最終的な目的指標の効果検証が求められますが、改善点や課題の抽出も含めてここでの検証がしっかり行われていることによって、適切な回答ができるようになります。
なお分析方法については今後別の記事等でご紹介していければと思いますが、以下の記事にもいくつか観点をご紹介しています。分析方法のイメージがつかない方はご参考にされてください。
取組みの改善
抽出された改善点や課題を踏まえて、今後どのように取り組んでいくのかを検討しましょう。施策の強化ポイントは何か、社内浸透させるための従業員コミュニケーションや推進体制等における強化ポイントは何か、など具体的な改善策を計画しましょう。
また改善策を踏まえて、戦略マップに載せる健康施策を見直すことも良いでしょう。戦略マップは未来志向なものであるため、古い施策よりも、今後強化していく施策が載っていて然るべきです。
なおこの改善事項の整理によって、調査票Q74SQ1:検証結果を踏まえた健康経営の取り組み改善に回答していくことができます。しかし、社内浸透のために推進体制面の見直しもかなり重要であるものの、それが選択肢には含まれていません(所々調査票には重要な抜け落ちポイントを感じます)。社内浸透するためには何が必要か、このタイミングで見直せると良いでしょう。
[調査票Q74SQ1:検証結果を踏まえた改善事項]
関連記事:熱量の高い健康経営推進体制を構築するための15の方策
4.PDCA関連設問への回答作成
効果検証・改善関連設問
以上のステップを通じて整理したことを、後はPDCA関連設問への自由回答欄に記載するのみです。
よくこの箇所が難しいとお声をいただくことが多いですが、ここまでにご紹介したステップ(1.目的・戦略の再確認→2.実績の振り返り→3.検証・改善)ができていれば、特に難しいことはありません。検証結果や今後の改善事項を基に、定量的にかつ論理的に記述しましょう。
[調査票Q73:施策実施効果の検証]
[調査票Q74:最終的な目標指標の検証]
推進計画関連設問
こちらも検証結果や今後の改善事項を踏まえ、今後どのような取り組みを行っていくか、主軸となる計画を整理することで対応することが可能です。
健康施策として何を進めていくかだけではなく、どのように推進体制を回していくなど、多面的に計画が練られていることが重要です。
[調査票Q35:健康経営の推進計画]
5.社外開示
社外開示内容の整理
ここまでにご紹介したステップ(1.目的・戦略の再確認→2.実績の振り返り→3.検証・改善→4.PDCA関連設問への回答作成)ができていれば、それらを踏まえることで社外開示内容を更新していくことが可能です。
[調査票Q17SQ1:社外開示内容]
調査票で求められる選択肢に機械的に対応するのではなく、読んで欲しい相手を想定したストーリーや強弱などを意識することが重要です。
経営層との対話
ここまでのステップで取り組んだ、健康経営の目指す姿や戦略マップの見直し案、KPI実績、効果検証結果や今後の改善計画、社外開示内容案、などをまとめて、調査票提出前のタイミングで経営会議等に付議するケースも多くあります。
事務局で検討・作成した叩きを基に経営層から前向きな意見をもらい、より自社に合った取組み、社内に浸透する取組みへとブラッシュアップを図っていけると良いでしょう。
[調査票Q25:経営レベルの会議における議題化内容]
6.調査票のとりまとめ
適合状況設問への回答
ここまでのステップで対応できていない調査票設問として残るは適合状況設問です。特に「制度・施策実行」における適合状況設問が多く存在しています。
これに対しては、現時点で対応できていることに素直にチェックを付けるほか、自社の健康課題に沿った施策や制度がなければ可能な範囲で強化してチェックできる箇所を増やす、くらいのスタンスが良いでしょう。
(ただし、調査票回答後にリスタートを切ったり、次年度計画を立てたりするタイミングで、抜本的な施策・制度の見直しを図るべきなのは間違いありません。)
調査票の「制度・施策実行」の占めるウェイトは2/10ですが、これまでのステップ1~5が関わる「経営理念・方針」「組織体制」「評価・改善」の合計ウェイトは8/10です。明らかに、調査票のチェックを増やすことにリソースを投下するよりも、これまでのステップ1~5にしっかりと時間を使っていく方が、投資対効果が高くおススメです。
また、調査回答後も、キャパオーバーの施策・制度を運用しようとすればするほど、一つひとつに充てられるリソースが薄くなり、結果として従業員への浸透力が弱まり、それは結果として調査票での評価ダウンにも繋がりかねません。重要度を踏まえて実行する施策・制度を取捨選択し、限りあるリソースで運用することが極めて重要です。
7.調査票の振り返り
調査票は提出して終わり、今年度は当初通り進める・・・では意味がありません。
ステップ3の検証・改善、ステップ4のPDCA関連設問への回答作成を通じて、今後の強化方策が見えてくるはずです。それをしっかりと具体化していくのが調査票後になります。
また調査票各設問への対応状況を確認することで、形式上は対応できていても本質的な健康経営という意味では不十分であると認識することも多く出てきます。例えば、〇〇の施策を実施してはいるが従業員には全く浸透していない、といったやりっ放しのケースなどがあります。
これらを課題として認識し、早期にテコ入れを図っていくことが意味ある健康経営に向けて極めて重要です。
10月の調査票提出後のタイミング、12月のフィードバックシートが返却されるタイミングなどを活用して、振り返りを行うと良いでしょう。
まとめ
本稿では、今後の健康経営に活かしていくための調査票への取り組み方を解説しました。「制度・施策実行」の細かい選択肢への対応に追われるのではなく、CAPD(Check→Action→Plan→Do)の意識を持って調査票に臨むことが、本質的な健康経営には極めて重要です。
目先の評価アップに目が行きがちですが、このサイクルを回せてこそ安定的な評価を得られるようになります。
WILLEEのサポート内容
弊社は健康経営のPDCAの推進に関わるあらゆる側面を伴走型でサポートしており、調査回答サポートも行っております。
認定取得を売り文句にしたコンサル会社は有象無象存在していますが、それとは一線を画し、本稿でご紹介したような調査回答を通じて本質的な健康経営に向けた足がかりを作ることを目的としています。もちろん認定はその結果としてついてきます。
以下を中心としたサポートを行っておりますので、ご関心のある方は資料ダウンロードもしくはお問い合わせください。
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